《MUMEI》

目をつぶって、思いっきり、叫んだ。
それと同時に、脚の指先からも残さず、全てを振り絞った。

“あ”すら言うこともできないうちに、一面は凍りついた。
そこは氷に覆われたデスゾーン。

広がる世界は、先ほどまでとは考え付かないほど違っていた。
周りを御神木よりも太く、高い、天を貫くと言っていいほどの紅い氷柱が森のようにそびえていて―――――

―――――飛は、紅い腕に首を絞められ、氷の刃の切っ先が、飛の体中を貫いている。


ぐったりとしていて、うごかない。


死んだのか。

殺してしまったんだな。

これで私は、終わってしまうのかな―――。



目の前がぐにゃりと変形して、意識がもうろうとする。
深い、底なしの穴を、急降下しているような、でも手を伸ばすこともできない。そんな感覚に襲われた。


―――――そうか、私、これから死ぬんだね。



せっかく、恭介に会えたのに、ゲームも始まったばかりなのに―――

でも、拒んではだめ。

だって、自分の選んだ道でしょ、自分の大切な物を護るために選んだ道でしょ…。




―――――でもどうして?


目から涙が、止まらない―――――――――



胸がキュウとしまって、口も歪んでくる。

さみしいよ、このまま死ぬなんて――――――



「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



断末魔のように叫ぶと、体中に疲れがどっと襲ってくる。

ゾウが、いや、きっと地球くらいの重さが、私に降りかかって、もうすぐ死を迎える。



そのとき。



パキパキ、と、遠くで音がした。


サク、サク、と、誰かが歩く音がした。


狂った笑い声も、聞こえてきた。


意識が、遠くなっていく―――――――――――――――



                 「ソんなンデ俺ガしヌトでモ思ッタ?」




                 「モう終ワり?ツまんナいヨォ」




                 「早クおキテよォ…モッと遊ぼウヨォ…」



                 
                 「ヤッと面白イヤつガキたト思ッたノニなァ…」





その声と足音は、何も見えない真っ白な世界の中で、近づいてくる。




                 
…あれ?足音が聞こえなくなった。




                 「ジャあ、食べチャおウ」





―――――――――その一瞬だけ、白い世界はけし飛んで、目の前が見える。






「う゛あ゛あ゛あ゛ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」





そして、そこから左手の小指の感覚が、けし飛んだ。




                                                                      .               

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