《MUMEI》

ゴリゴリと、奴が私の小指を食べている、気味悪い音がする。

嫌だ…

こんなやつに食われて終わるだなんて…


我に返って、酷く痺れた右手で飛を殴ろうとするが、逆に右腕を掴まれてしまう。

最初に会った時と全く違う、顔じゅうにこびりついた私の血が、とても不気味で、
ヒッと、声を出してしまう。


また、涙が出た。

こんどはさみしいわけじゃない!!

恐ろしい!怖い!

嫌だ!!!


飛が、薬指にかぶりつき…食b グサ


―――飛が、私の膝に倒れこんでくる。

―――その背中には、黒い鋼の短刀が刺さっていた。カンフー服に、紅い染みがジワジワと広がる。


声が、出ない。

何が、起こった?

上を見上げると、そこには以前に見たことのある、怖い面だった。



「大丈夫か」



彼は微笑みもせず、無表情で私を見つめる。


・・・、声が出せない。


それを悟ったように、彼はうごかない飛を抱え上げ、氷柱の下におろした。

それをぼーっと見つめていた私の右腕を引っ張り上げた。

「お前、ビン溶かした奴だろ」

小さく頷く。

彼は血だらけの私を抱え、氷柱の森を去る。

やがて降り出した、美しいダイヤモンドダストと、彼の温かい温度に、優しく包まれていた。




―――――私はそのまま、遠い世界へと吸い込まれていった。



                                                                      .

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫