《MUMEI》

花瓶の置かれた机に進む摩起は足元もおぼつかなく、目も虚ろで、
周りのお喋りの声も無意味なノイズと化し、右耳から左耳へ通り抜けていく。
「梨々香達、もう二週間も学校来ないけど、本当にどうしちゃったんだろうね」
「三人揃って家出かしら?」
「どこかで、遊びまわってんじゃん」
それに答える、囁くような声。
「何か親が警察に失踪届け出したみたいよ」
「またかよ。林(担任)も居なくなって一月経つし、最近このクラスで失踪ブームとか起きてなくね?」
「四人とも一緒だったりして・・・・」
「マジかよ、それってハーレムじゃん。林やるなーー!」
「どうでもいいけど、副担任のヒステリーババアが後釜に座るのは、マジ勘弁して」
「激しく同意!!」
「どうでも良くねーぞ!梨々香は俺の女だ」
「妄想、乙・・・・」
「重症だ。お前、いっぺん医者に見てもらった方がいいぞ」


その時・・・・



ガラガラ・・・・と教室の戸を開けて、
眼鏡をかけた生真面目そうな、副担任の女性教諭が入って来た。
ざわめいていた教室が一気に静まりかえる。
副担任は教壇前にツカツカと歩み寄ると、
「今日はみんなに残念なお知らせがあります」
コホンと、勿体−もったい−ぶるように咳払いをして、四囲を見渡す。
「林先生が今朝、C区の森の中で首を吊って亡くなっているのが見つかりました・・・・」
副担任の告げるその言葉だけが、なぜかクリアーに摩起の耳の中にしっかりと入ってきた。


『お前ら、あんまりやり過ぎるなよ』


その教師としての使命を放棄した笑い顔が、つい先日の事のように摩起の脳裡に浮かんでいる。
えーー!!
驚きの叫びの後、教室内は一気に騒然となった。
「C区の森って、幽霊屋敷のそばじゃね?!」
「魔女だよ!やっぱ居るんだよ、あそこ!」
誰かが呪いだ!と叫ぶ。


『あんまりやり過ぎるなよ』


囁くように誰かが言っている。
「この学校にもいるよ。さっきも誰もいないトイレから変な声が・・・・」
「静かに!!お前ら静かにしろ!!」
女性教諭が怒鳴る。
騒然としている中で、摩起はひとり静かに座っていた。
その顔にゆっくり大きな笑みが広がっていくのを、当の本人が気が付いたか・・
・・どうか・・・・。

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