《MUMEI》

――――――――――――見られている。監視されている。

俺はそれを改めて感じる。

後ろに血まみれの女の幽霊が立っているかのような気分で、振り返る勇気もなくなるようなおぞましい視線が、俺を視ている。

その視線が、誰がはなっているのかもわからない。もしかしたら、そこにいる全員が俺を一斉に見ているのかもしれない。


俺は心から思った。





“怖い”と。





「きょーすけ君」

ミーシャ。その声の調子は、俺を嘲笑うかのよう。

「何時までそうしてるつもり?貴方は“逃げられない”のよ?」

俺は黙りこくってやった。…ウソ。怖くて声すら出せないんだ。

「どうしたら強情なきょーすけ君をその気にさせることができるかなぁー」




「そうねぇー、例えば、  “君の妹の行方”  とかどう?」




俺は目を見開いて、恐怖など気にすることも無く、振り返った。

杏。こいつらは杏の事を知ってやがるのか!?

あいつは別に天才ってわけでも無く、普通の優しい、自慢できる妹だった。

そんな平凡な杏が、そう有名なはずがない。ありえない。

ましてや、こんなロシアから来たとかいうロシア人が俺の妹のこと知ってるか普通!!

俺はひたすら否定の文章を頭に並べ、自分の脅威となる人物らに求め伸ばす手を押さえる。

「あら、本当に食いついた!!もしかして、シスコンだったりするの?」

気味の悪い笑顔を黒く輝かせて、籠の中の俺を観察する、ミーシャ。



「もし、君が私たちのチームに入ってくれるのだったら、教えてあげるよ」


     

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