《MUMEI》
庵(いおり)に住まう妖(もの)
若草色の着物で、
畳に正座し、お茶を点てる

腰あたりまでの長さの波がかった
白銀の髪に

桜を想わせる薄桃色の瞳

その姿を人が見れば
二十歳後半の一風変わった男性に
私の姿は見えるかも知れません。

…が、

それは、偽りの姿であり、
私の真の姿は、

人を騙すと伝えられる妖狐
その妖狐の中でも、尾を九つ持つ大妖怪
[九尾の狐]の一族の一人なのです。

私が九尾の狐として生きてきた年数は
数え切れない。

その数え切れない時を、人間に化け
人間達に混じり過ごしてきた。

今は、この人間達が住まう人の世と
私達、人成らぬ妖(もの)が住まう世の
狭間に庵を建て

[織 桜霞] (しき おうか)

と名乗り

お茶を嗜む
26歳の男性として
人の世では、生きている。

たまに訪れる茶のみ仲間からは

「桜霞殿」と呼ばれ

妖達からは、

「織様」

と、敬称付きの名か

[和宮桜] (オクオウ)

と呼ばれています。

…まぁ、和宮桜と私を呼ぶのは
神の座に籍を置いている神々だけなのですが。

…おや、

いつの間にか
日が落ちて、辺りは漆黒の闇に包まれている。

…では、今日はここらで、お開きと言う事で。

帰りの道中は、おきおつけて。

夕暮れ時は、人の世と、妖の世が
重なる時刻…。

けして、[何者か]に惑わされないように…。



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