《MUMEI》
3日前
 少し、休憩しようか
この日も図書室にて片付けに勤しんでいた自分達
片付けも順調に進み、室内も見るに綺麗になってきた頃彼女がそう切り出してきた
そうだなを返してやろうとした瞬間
頬に、温かなマグカップが押し当てられる
コーヒー、ブラックでよかった?
態々準備をしてきたのか
そのマグカップの中には香ばしい風味のコーヒー
一言礼を言い、それを受け取り一口飲めば
程よい香りと、温もり
インスタントのソレではない味に、どうしたのかを問えば
彼女は僅かに笑みを浮かべながら
一人用のドリッパーを見せてきた
「態々持ってきたのか?ソレ」
随分と準備がいい、とそれをまた一口
その傍らでは彼女が自分用のコーヒーをまたドリップしている
その景色は、日常と何ら変わりのないそれだった
これを、もうすぐ失わなければならない
どうもその後ろ向きな思考が表情に出てしまっていたらしく
コーヒーカップを置く微かな音が音が聞こえてきたかと思えば
彼女の手が自分の頬へと触れてきた
まだ、後二日もある
随分と前向きなことを言ってくる
そして同時に差し出してきたのは、その本
続きを読めとせがまれ、自分は肩を揺らすと
いつもの、彼女を膝に乗せた体勢を取り読み始めていた
(あなたの寒さも、寂しさも、半分ずつ私が背負うから
だから一人で傷付かないで欲しい、苦しまないで欲しい
少女はそればかりを切に願う
だがその願いも虚しく、世界の身体に突然、深い傷が現れた
驚き、少女が眼を見開けば世界は何とか笑みを浮かべて見せ
驚かせてごめん、と詫びだけを入れ、そして大丈夫だからと、解りきった嘘
だがそれを嘘だと言う事が少女には出来なかった)
話も佳境に入ってきた丁度その時
構内に、危険なので早々に帰宅する様放送が掛る
大学に帰宅を促す放送が流れるなど珍しい事だが
現状が現状なだけに仕方のない事だった
自分は態と音を立てて本を閉じると
「続きは、また明日な」
明日、また無事に明日が来るように
そう願いながら自分たちはその場を後にしていた……

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