《MUMEI》

エレベーターの扉の上のランプは徐々に一階へ近付いてくる。

「まず、操作方法だ。ゲーム機本体に搭載されている機能のカメラで、三百六十度からの写真を撮影する。まぁ、撮るのは前両横後ろだ。それがゲーム内でのアバターになる。中では現実と同じ様に体を動かす事が出来る。」

長々とした文章を元に、ゲームの形を想像する。


目を閉じ、深く、脳内に創造する。


「成る程。続けて。」

そのまま持続し、言葉を待つ。

「ゲームを始めるには、三つの事をして貰う。ゲーム本体に接続した二本のコードの先端の指輪状の輪を中指にセットし、付属の首輪を装着する事。それから、目を閉じ、想像する事。」

「想像?」

目を閉じ、脳内のイメージを離さない様に目を開く。

ピンポーン

と同時に、タイミング良くエレベーターの扉が開く。

「あぁ。想像でいい。そこから世界は生まれるのだから。」

言いながら、同時に右足を出す。後ろに付いてきていた二人は、エレベーターの中までは入って来ない。


「それは良いとして、重要なのは中での事だ。そこまで俺は世話を見てやれない。」


そこまで言って、矢吹慶一郎は、少し間を置いた。

「…完全にゲームに入ると、変な浮游感が沙弥嬢を襲うが、馴れろ。それがゲーム内の感覚だ。そして、気が付くと性別雄の小人が君に添って一緒に浮游している筈だ。そいつはゲームの案内役だ。名前を付けられる。」


「ふむふむ。」

今の所の想像では、全く問題は無い。チラリと階数を目に映すと、まだ十階にも行っていない。


「そして、忠告と設定だが、君は特殊に設定されていて、初期レベルが既に五十だ。それは不信感を無くす為。それから、中に入ったら、ゲームをクリアするまで出られない。中で、沙弥嬢の兄に会えるかどうかは判らない。」


少し唇を噛み、「うん」となんでもないように呟いた。

そうだ。私は今から出られる保証も無い命懸けの戦場へ挑むのだ。


「それでは、以上で説明は終了だ。質問はあるか?今なら答えてやらないでもない。」

その上から目線を突っ込もうとしたが、やめた。



「ひとつだけ。質問がある。」


「なんだ?」


「どうして私をミリオンヘイムオンラインに招待して下さったのですか。」

すると、矢吹慶一郎は肩を竦めた。


「なんとも良すぎる質問だよ、沙弥嬢。」



矢吹慶一郎の頬にはひきつった笑みが浮かんだ。

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