《MUMEI》

 「さて、お前はどういう風に死んでいきたい?」
失っていた意識を取り戻すなりだった
自身がどこにいるのかを確認するよりも先に、唐突にソレを問われた
どういう死に方を選びたいか
選ばせてくれる気があるのか、だがそんなもの選びたくはない
「……死にたく、ねぇ」
例え自分にNO.13が宛がわれてしまったとしても
生を望む事は人として当然の権利で
それを奪われる道理など何処にも無かった
その意思を示してやるかのように相手を睨み付けてやれば
相手は相手は瞬間眼を細めたがすぐに肩を揺らし
「……反抗的な目をする。面白いな」
にやりその唇を弧に歪めながら
相手は坂下の身体を若干手荒く引き起こす
引かれた腕に感じた痛みに顔を顰めながら相手を睨み付けてやった
「……助かりたいか?小僧」
まるでそうしてやることが出来る、と言わんばかりのソレ
助かる事が出来るのならば、助かりたい
それが人間としての真理
縋る様に手を伸ばしてしまえば、相手の表情が嫌な笑みに歪む
「ならば、機会をやろうか」
手を出せとのそれに従い手を差し出してやれば
何かを握らされる
見ればそれは一振りの刀
よもやそんなモノが出てくるなどは思わず、それをつい取り落としてしまう
「それはお前にやる。好きに使え」
「好きにって……」
一体、こんなもので何をしろと言うのか
どうにも分からないそれに、相手を睨み付ければ
不意に、坂下はその刀を握り返す
一度も振るった事のない筈のそれがやけに手に馴染み
坂下を分からない衝動に包んでいった
「――っ!!」
分からない、何もかもが
瞬間、頭が考える事全てを拒否してしまい
身体だけが自分を守ろうと勝手な動きをする
「ほぉ。これは一体何の真似だ?小僧」
勢いよく相手の膝の上へと飛んで乗り、喉元へと刃先を突き付ける
これから、何をしようというのか
坂下自身分からず困惑気な表情を浮かべるばかりだ
だが今なら、脅す事が出来るかもしれない
自分が、助かるために
「死を前に、足掻くか。人間らしいな」
「……悪いか?」
揶揄う様なそれに坂下は刃をさらに近く寄せ
薄く皮を切ったのか、赤く細い筋が滴り落ちる
「……まぁ、面白いかもしれんな」
「俺は絶対死なんて望まない。俺だけは、絶対に」
断言に近いソレを返してやれば
相手は窺うような視線を向け、だがすぐに肩を揺らして見せる
「……お前は、楽しすぎる」
喉の奥に含む様に笑う声を漏らした後
相手は徐に坂下の手を取り、薬指に噛み跡を残した
流れ出す、細い朱
「お前も噛め。咥えろ」
痛み驚く間もないままに坂下の口内へと指が差し込まれる
喉の奥にまで差し込まれ、えづいてしまいながらも
何とか言われるがままに噛み傷をつけてやった
「……これで、いいかよ」
互いの指に付けたられた噛み傷
これが一体何を意味すると言うのか
坂下には何一つ、分かる筈もない
「……これは、(枷)、だな」
「……枷?」
「そう、枷だ。これがある限り、わしとお前の心臓は同じ時を共有する」
「は?」
言われている事が、今一よく分からなかった
どういう事なのかを更に問うてやろうとした次の瞬間
心臓がひどく脈打った
今までの自分の脈とは明らかに違うソレに
坂下は動揺を初めてしまう
感じる違和感に、心臓を掻きむしってしまいたい衝動に駆られ
坂下は服を皺が付く程に握り締める
「ほら。ほかの13が、お前を殺しに来たぞ」
相手の、楽しげな声
見てみろと顎をしゃくられた先に、その人物がいた
ゆらりゆらりと覚束ない脚取り、生気のない顔色
明らかに様子がおかしかった
逃げな、ければ
本能がそう判断した時にはすでにその人物の姿が近くあった
向けられる刃物に殺意を感じ、坂下は脚をすくませてしまう
「……馬鹿が!」
微かに呟く声が聞こえたかと思えば心臓がまた酷く脈打つ音を始め
坂下はその瞬間、意識が遠のいていくのを感じた
完全に意識を失い、だが坂下は崩れ落ちる事無くその場に立ったままだ
その坂下を相手は背後から肩に腕を回し
「……殺せ。手を、貸してやる」
耳元へと囁きかけた

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