《MUMEI》 『で、なんでそういうことに――――』 端末のスピーカーを手で押さえ、なるべく音を出さないようにして経緯を細かく、かつシンプルにまとめて説明した。 『…恭介は何かしら人をひきつけるような気がしてならないよ』 「…悪い意味でな」 って、こんな雑談してる場合じゃない。 俺がしゃべろうとした時、スピーカーの向こう側から、梓ではない、低い男の声がした。 誰――――――? ――そうか、梓はあんなときに話しかけてくれるいいやつなんだから、俺以外に友人がいたっておかしくないな。 …少し、気持ちが沈んだ。 その理由は、自分でもわからなかった。だって、こんなことで落ち込まないよ、俺。慣れてるし しばらくスピーカーに耳を傾け、そのかすかに聞こえる声に聞き入っていた。 何を話しているかは分からなかったが、話が進むにつれ、二人の声の調子が激しくなっていくのはわかった。 そのあと、梓の声がだんだん聞こえるようになってきて、行く!と子供がせがんでいるような感じで言っているのがわかった。 それに合わせて、それを否定するあらゆる言葉で梓に言い返している低い声も聞こえてきた。 しばらく言い合って、ちょっ何す!!という梓の声が聞こえた。そのあと、低い声の男が電話に出た。 『俺は上原の知り合いなんだが、こいつは今酷い怪我を負っている。残念だが他を当たってくれ』 「おい!ちょっと!!」 …ツー、ツー、ツー 電話、切りやがった。 酷い怪我…でも、梓はちゃんと生きている。良かった…今更だけど。 他を当たれと言われても、当たる他がいないんですけど… 俺は、最後の希望の扉を塞がれた思いで、織りの中で項垂れた。 ――――梓と、ソイツ。仲良いのかなぁ…なんて、変なこと考えちゃったりして。 前へ |次へ |
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