《MUMEI》
人体実験の続き(終)
背中に羽根のある少年の続き(8)


ヒロはベッドに眠るジンを揺り起こす!

『兄貴?兄貴、なぁ起きろよ!』

…まさか、死んでないよな?慌てて、左の胸に耳を当てる。トクトク…と心音が聞こえ安堵する。

「ぅ…ン」
小さな呻き声の後、ジンが目覚める。

『兄貴!』

…目の前にヒロの顔がある。あぁ、俺は夢を見ているのか?幸せな夢を…。

『兄貴!』

…いや、待て。俺は何故寝ていた?あの時、ヨクと乾杯して…

「ヨク、ヨクは何処だ?羽根取引は?」

ジンはベッドから跳ね起きる。

『兄貴!良かった。このまま目を覚まさないかと思って…』

「ヒロ、何故いる?ヨクは何処だ?此処は何処だ?」

矢継ぎ早やの質問に今まで話を聞かせるヒロ。

「ヨク、アイツまさか…独りで羽根取引に?」

血相を変えて、部屋を出たジンを待っていたのは、ヒロ達を船へと案内した男だった。

『ジン、お前が目覚めたら渡すようにヨクから預かった。』

そう言って渡されたのは一通の手紙。


*****

よぉ、ジン!お前がこの手紙を読んでるって事は俺の計画は上手くいったんだろうな。

ジン、お前から頼みを受けた時に、俺は俺自身のケジメを付ける為に、自らの計画を企てた。

ジン、お前は二人は闇市にいるべきじゃないと言ったが、お前も闇市にいるべき人間じゃない。
もっと、明るい場所で幸せに暮らせる人間だ。

俺みたいに、ここで生まれ育った者とは違うんだ。俺のような生まれながらの実験奴隷とは、な。

物心付く前から、実験奴隷としての生活。幼い頃はまだ良かった。しかし何時の頃からか、闇市の連中は、人間に羽根を生やす事に執着し始める。

多くの犠牲者の上に成り立つ、ただひとつの成功例。それが俺。黒き羽根を生やした、悪魔の如き容姿。試作品第1号《翼(ヨク)》それが俺の呼び名。
連中は嬉々として、俺を見世物にし、毎晩開かれるお披露目と称した淫らな交流会。


俺が成功しちまったから、次々生まれた哀れな羽根達。

いつかこの手でケジメを着けたいと望んでいた。
その願いが叶う日が来たんだ。俺は今夜、ラボと自らを爆破する。これで新たな羽根が生まれる事はなくなるだろう。

警察にも通報しておいたから、闇市の取り締まりも厳しくなるはずだ。

お前たちは自由になれる。

あとベッドの引き出しに薬が入っている。その薬を羽根のある少年に飲ませてくれ。その薬は、完全には無くならないが、羽根を退化させる力がある。飲み続ければ、かなり目立たなくなるだろう。

さて、そろそろ時間だ。
ジン、お前と過ごせた日々が俺の人生の中で一番楽しい時だったよ。ありがとう、ジン。

……幸せになれよ。


*****


ジンが手紙を読み終えた、丁度その時……今は離れた陸の方で爆音と火柱が上がる。

それは、ヨクが逝く音。闇夜を赤く染めて黒き羽根が舞い散る。


「ヨク、ヨクゥゥ…」

ジンは、力の限り泣き叫ぶ!

「あのバカ野郎が…」

ヒロは、そんなジンの身体を黙って後ろから抱き締めていた。

船は静かな闇を抜けて何処かへと進んでいった。

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