《MUMEI》

「んむ。最近、この辺りの森が物騒だと聞いたんでな。パトロールがてら、立ち寄ってみたと言うわけさ」
「さすが、林先生!生徒思いなんですね!」
「ん?わはは。そう言われると照れるな」
林は頭を掻いた。
摩起の背後から、一斉に三人の声が上がった。
「林ーーっ!!いや・・・先生ーーっ!
助けてーー!!」
「私達、摩起のやつに監禁されてるんだーー!!」
「ん?」林が一瞬、怪訝そうな顔を見せる。
摩起は背後をちらりと振り返った。
次の瞬間、三人は口にリンゴをくわえていた。
「★◆●▼◎◇!!」
「ふがふが」
摩起は上体をもがかせている三人にウィンクしてみせた。
林は屋敷内の異変には気付いた様子もなく、
「梨々香達とは相変わらず仲がいいみたいだな。しかし、時間が時間だ。もうそろ帰宅せんとな。夜道は物騒だ。」
窓辺の教え子を見上げて言う。
「はい、先生。今日はケーキを作ったので三人に食べてもらってるんです。
食べ終わったら帰ってもらいます。
先生も、いかがですか?」
「ありがたい申し出だが、今夜はやめておくよ。おや?」
林は再び怪訝そうな顔を見せると、両掌を上に向けた。
「あら?」摩起も窓外に顔を出して、
頬に一筋の水が伝うのを感じたので、
雨が降り始めた事に気付いた。
いつの間にか月が黒い雲に覆われている。
「雨みたいですね。先生、傘をお貸ししますわ」
「大丈夫さ」
「本当に嫌な雨」
摩起に答えず、何故か林はイタズラっぽい笑みを浮かべて、背後に手を回した。
クスクスと笑っている。
その手がコウモリ傘を持って、また表れるのを見た摩起は、
「先生て、もしかして手品師?」
心底びっくりしたように問うと、
それにも答えず相変わらずイタズラっぽい笑みを浮かべたまま、コウモリ傘を
パッと広げた。
それと同時に、ぽつりぽつりと降り始めていた雨が、急に雨足を強め出した。
「先生?」
林は何か、ぶつぶつと呟いている。
「ふふふ。僕が手品師かって・・・・
?いやいや、違うでしょ摩起ちゃん」
「は?」
何を思ったか林はせっかく広げた傘を再び畳んでしまうと、それを肩にかけて、鼻歌らしきものを歌いながら屋敷の庭をゆっくり歩き出す。
スーツがびしょ濡れになるのもお構い無しのように。
「とぅるる♪とぅるるる♪とぅるる♪とぅるるる♪」
鼻歌を口ちづさみながら。
そのメロディは摩起にとっては馴染み深いものだった。
すでに何百回と聞いた事があるそのメロディ、そう、それは・・・・

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