《MUMEI》

「僕は手品師なんかじゃない・・・・」
「ま・・・・まさか・・・・」
うつ向いていた顔がパッと摩起の方に
上向くと、満面に笑みが浮かんでいた。
「僕は・・・・、僕は・・・・、
僕はジイイイーーン・ケーーリイイだ
ーーー!!!!!」
傘を放り投げ、両腕を広げ叫ぶ。
「やっぱり!!」
摩起が両手を打ち合わせる。
そして・・・・摩起の担任教師は、雨に打たれながら歌い出した。
摩起の愛するミュージカル映画『雨に唄えば』の、ジーン・ケリーそのままに。



僕は雨の中で唄っている
ただ雨の中で唄っているだけさ
なんて素敵な気分なんだろう
また幸せになれたんだ
僕は雨雲に笑いかける
空は暗く曇っているけれど
僕の心にはお日さまが照っている
新しい恋にはぴったりだ




担任は樹木の幹に脚をかけると、右手で枝を掴み体を斜めにぶら下げながら歌い続ける。
その顔には固定されたように、笑顔が張り付いていた。
摩起は窓枠に肘をつき、両掌に顎を乗せて、そんな担任教師を微笑ましそうに
見守っている。
今や雨は滝のように降り落ちている。
スーツを通り越して、雨水は下着まで染み通っている事だろう。
だが林は、そんな事は知った事かと言わんばかりに、樹の幹から水溜まりの中ヘダイブする。
泥水を跳ね散らかしながら、タップダンス を踊る。

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