《MUMEI》
Case2 END roll
 誰も訪れる事のなくなってしまった図書館
そこには取り残されたままになってしまっている本があふれ
その本に半ば埋もれながら、自分達は(その時)を待った
「お前って、本当本好きな」
自分が持っていた本をいつの間にか大事そうに抱きしめていた彼女へ
肩を笑みに揺らしながら言ってやれば
彼女の手が本を手放し、自分へと伸びてくる
君は(世界)じゃないけれど、君がくれる言葉の世界は楽しかった
有難う、と本を読んでやった事への礼が告げられ
これで最後なのだと、いやでも実感させられる
何故、どうして
誰を問い質しても返って来ることはない答え
聞く事さえも最早無意味でしかないのだと分かっているが故に
自分はその言葉を飲み込むしかなかった
「……続き、読むか」
世界が軋む音、死んでいく音が響き始め
それを聞きながら自分は最後の一節を読み始めた
(……ありがとう。僕という世界が、君だけのものであったなら良かったのに
そうすればきっと幸せになれただろうと世界は崩れそうな程に脆い笑みを浮かべて見せる
その言葉に、少女の頬に一筋の涙が伝い
抱きしめてやろうと手を伸ばした瞬間、世界はその姿を消してしまっていた
世界の、終わり
この瞬間、【世界】は終わりをつげ、ソコに何が残る事もなかったのだった……)
読み終えてみれば、悲しく、切ない物語
まるで今の自分たちの様だと彼女が呟くのをすぐそばで聞き
堪らずその身体を抱きしめていた
ソレに返してくれる様に彼女の手が自分の傷を覆う包帯へと延びてくる
私も、守ってあげられれば良かった
そう言ってくれる彼女が、愛おしかった
思えば互いに愛でもなく恋でもない、分からない関係だった
だが今、この瞬間に傍に居るのが彼女で良かったと心から思う
「……傍に居てくれて、俺の声を聞いてくれて、ありがとな」
告げる事が出来たのは、この言葉だけ
だがこれだけでも伝えられれば充分だと
世界が死んでいく音を傍らに聞きながら
それでも最後の瞬間まで彼女を手放す事はしなかったのだった……



Dear 吉沢 拓馬様
毎日本を読んでくれて、私の所へ来てくれて有難う
すごく嬉しかった
君の読んでくれる物語が、そして君の声が私は大好きでした
もっともっと聞いていたかったけれど、それはもう無理だから
君の声を、そして君が読んでくれた物語の事を、私はずっと忘れません。本当に、有難う
                      From        より

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