《MUMEI》

俺は、“透明”ではなく、もうむしろ、“無”になりたいと願いながら、握る透明な剣を振り下ろす。

ザシュ―――――――


ナギナタを構えた少女は、自分の足を切られた、と気づくと、素早く刃を振り下ろす、が、刺さった感覚はない。
つまり、そこには恭介はいない。

少女は危険を感じたのか、ナギナタを振り回す。

だが、俺だって負けるわけにはいかない。

ひたすらに剣を振り回し、ナギナタの刃にかすりながらも、相手を鎌鼬のように切りつける。

ザシュ――ザシュッ―――

「すごい、相手を押してる!!」

梓は歓喜の声を上げた。
必死だったから、振り返ることはできなかった。でも、黎司もきっと驚くだろう。あんぐりとした表情が目に浮かぶ。
こんなに本気を出したことなんてなかった。

本気を出せば、俺だって――――――

カキン、カキンと鉄と氷をぶつけながらも、切り裂き、切り裂かれ、両者ともに傷だらけになった。服もボロボロだった。

この調子で――と、再び切りかかろうとした時だった。

パン、パン、パン、と、廊下の方から拍手の音が聞こえてくる。

少女も手を止め、起きたか、と呟いた。

バン、と扉を蹴破り、現れたのは、ミーシャだった。

「あら、失敗したと思ったのに…。騒がしいからきてみれば。明智、オツカレサマ。」

「ケッ」

明智は壁に寄りかかり、ミーシャに道を開けた。

ミーシャはまじまじと俺、梓、黎司を見ると、明智?というナギナタ少女の方を向いた。

「なんで本気出さないのよ―。あんたの本気なら、瞬殺よ?しゅ・ん・さ・つ」

「こいつが死んでも良いなら」

と、恭介をビシッと指差した。

「だーめ」

ミーシャはニヒルな笑みを浮かべ、再び俺達を眺める。

「明智、きょーちゃんを確保しなさい」

低い声でそういうと、危険を感じ、透明になって隠れる。

―――――だが、隠れる間もなく、少女の手に服を引っ張られ、ウワッという声を上げながら、となりの部屋まで拉致される。

「恭介!!」

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