《MUMEI》
7日前
 牛乳がない
冷蔵庫の中の在庫を確認していた妻がそう呟いた
買い物に出てくるからと、妻は身支度を整え玄関へ
いつもならそこで見送るのだが、今日は身体の調子もよく自分も付いていく事に
「付いて行っても、いいか?」
自分からの珍しいソレに妻は瞬間驚いたような顔
大丈夫なのかと心配気な彼女へ、今日は調子がいいからと笑みを浮かべて見せ
二人連れだって外へ出る
今日の夕飯は何にしようか
いつも通りソレを聞かれ、自分は考える事を始める
昨日は煮魚、ならば今日は肉がいい
「手羽先の唐揚げ。甘辛いたれのやつ食いたい」
珍しく具体的な献立を言ってやれば、妻は嬉しそうに顔を綻ばせてくれ
材料を籠へと入れていく
清算を済ませ、買ったものを袋へと詰めている最中
妻があっと短い声を上げた
「どうかしたか?」
牛乳を買う事を忘れた
妻は慌ててそう言うと、直ぐ買ってくるからと身を翻す
近くある長椅子を指差し、座って待っていてくれと付け足して
自分は解ったと手を振って返しその椅子へと腰を降ろした
慌ててしまっている姿が遠くに見え、自分は肩を揺らす
「ゆっくりで良かったんだぞ」
息まで切らし戻ってきた妻へ笑んで向ければ
自分が慌てている様を見られていた、と顔を赤らめ頬を手で覆う
大丈夫、まだ何も失ってはいない
穏やかな生活も、そして自分自身も
その事に安堵し肩を撫で下ろした、次の瞬間
世界が軋む音を立て、そして振動を始める
それでも、終わりは確実に近づきつつある
咄嗟に妻を庇ってやりながら、思考がつい後ろを向いてしまった
「……帰るか。腹、減ったし」
マイナスにしか傾かない思考を振り払い
自分は妻の手を取ると、そのまま帰路へと着いたのだった……

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