《MUMEI》 摩起は、右の頬に強い圧迫感を感じて、目を覚ました。 柔らかい頬を、カーペットのけばけばが刺している。 どうやらベッドにも入らず、床にうつ伏せのまま、眠り込んでしまったようだ。 何かとても、ファンタスティックな夢を見ていたような気がするが、どんな内容なのかは思い出せなかった。 行き倒れの人間のように、投げ出された右手の先には、まだ半分しか完成していないジグソーパズルと、パズルのピースが散らばっている。 パズルを作っている最中に、眠り込んでしまったらしい。 パズルの絵の中では幾重に波を重ねあう広大な海原が、水平線に沈む夕陽にてらされて、オレンジ色に輝き、その上をカモメの群れが飛びかっている。 カモメの上に白い素足のようなものが浮かんでいたが、その上のほうは完成していないので、破かれたようにギザギザだった。 完成すればカモメと一緒に海上を飛行している、トンガリ帽子の、ホウキにまたがった魔女の絵が出来るはずだ。 摩起はすさまじい疲労感を感じながら、体を起こす。 まるで全身が鉛になってしまったような感じだ。 だがその得体の知れない消耗感も、ベッドの枕元の時計を見た瞬間に、大量のアドレナリンが放出されて吹き飛んでしまった。 ジーザスクライスト!遅刻しちゃうわ! もう、信じられない!どうしてママは起こしてくれなかったのかしら?! 大慌てで制服に着替えて、急いで階段を駆け下りる。 「時間が無いから朝ごはん食べないで行っちゃうよ!」 玄関で靴に爪先を突っ込みながら、ダイニングに向かって叫び、家を飛び出した。 スカートをひるがえして走って行く摩起の横で、電柱に貼られた紙が、今にも はがれかかって風にヒラヒラなびいている。 紙には『行方不明者』『目撃情報求む』 の文字が踊っていた。 紙には薄れかけているが、顔写真も載っている。 写真の顔は・・・・摩起だった。 前へ |
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