《MUMEI》
戦友
―――鮮血が、溢れ出た。

その生温かい血が放つ、倉庫を鉄の臭いで充満する―――

柔らかい脇腹から滴り落ちる、生命の証。

その二つの波紋は床に広がり、美しく、禍々しい、絵画を描く。



―――――相討ち。



ミーシャのレイピアが俺の脇腹を、明智のナギナタを俺がミーシャの脇腹に。

「…どうして、本気で殺らなかったんだよ」

明らかに見えた差。
俺のような雑魚がミーシャにかなうはずがなかった。―――偽りの強さと、攻撃。


「…どうしてかしらね…。まぁ…あえて言うならば」


――“自分のお気に入りはそう簡単に…、殺せなかったみたい”――


傷ついた、汚れてしまった整ったミーシャの顔が、辛そうに、つらそうに、そして何だろう―――
まるで嘲笑うような、不思議で複雑な、笑みをを浮かべ、その場に膝をついて、へたり込んだ。

「…なんで」

「なんでそんな…」

「優しいんだよ…」

「…敵同士なのに…」


脇腹が、痛い。
でも、それはミーシャも同じ。


俺の言葉を聞くと、ミーシャは苦しそうに脇腹を押えながら微笑み、Спасибо(ありがとう)と答えた。

「やっぱり、君は優しいね…」

ミーシャは遺言のようなさみしさのこもった声を出すと、ゆっくり立ち上がって、座り込んだ俺の手首をつかんで引っ張り上げた。

「…今度会うときは…友人として、会いましょう、恭介」

呼び名が、“きょーちゃん”から、“恭介”に変わる。
認められた、気がした。

俺は柔らかく微笑んで、おう、と答えた。

ミーシャは、その場で一回手をたたくと、梓らを襲い続けていたミーシャの仲間が、攻撃をやめ、ミーシャのもとへ集まる。

「なァんだ、もゥ終わりかぁ」

「そうよ。私たちは別の道をゆく」

「――――――さらば、戦友よ」

ミーシャは一瞬微笑んで、朝日の木漏れ日が差し込む、倉庫の出口へ、仲間を引き連れ歩いて行った。

 

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