《MUMEI》 影響―――朝だ。 何やら騒がしい。 朝からなんだっていうんだ…。 目を擦りながらふと、隣を見ると、そこには恭介の体をゆすって何度も何度も声をかける黎司の様子。 恭介はそれに応答していない。 その様子が、私の脳裏に嫌な予感をよぎらせた。 「黎司!どうかしたの?」 黎司がゆするのをやめ、こちらを向く。 「…コイツ」 黎司が恭介の顔を見下ろす。 ―――起きねェんだ…。 「起きない!?どういうことよ!!」 そのあと、黎司は事情を話してくれた。 自分が起きた後、恭介の方を見ると、異様な格好をし、目を開けたまま、瞬きを一切せず、口も開けっ放しで乾いた状態で固まっていたそうだ。 その伸ばした手は、ナースコールの方向。表情はとても苦しそうだったそうだ。 触れるとすぐに崩れ落ち、ベットに横たわったらしい。 口や目蓋を閉じてやり、普通の姿勢に戻し、布団をかけ、起きるかどうかしばらく待ったそうだが、何も変化はなし。 域もちゃんとしているし、心臓は動いているものの、何も動く様子はない。まるで寝たきりの老人だ。 お医者様に見てもらったそうだが、『植物状態』と診断されたようだ。原因は不明。 「俺らが寝ている間に、何かがあったっぽいんだ」 「…」 言葉を失った。 一緒にこのゲームを、攻略してくれるんじゃなかったの…? 一緒のチームで、頑張ってくれるんじゃなかったの…? 「…ぉぃ」 黎司が心配そうに私を見る。 床に大粒の雫がピシャリ、ピシャリと落ちて行く。止まらない。溢れ出る。 拭っても、拭っても、それは服の袖が濡れるだけで、涙はどんどん流れて行く。 「うわああああ!!」 恭介のベットに顔をうずめ、泣き叫んだ。 ――――――――――― 次の日も、その次の日も。またその次の日も。 私は動かない死体のような恭介を見ながら、おはよう、と声をかけながら、泣き続けた。 私の瞼は大きく腫れ、赤く膨らんでいった。 「…梓」 わかってるよ。黎司。 「…もう、」 私がどんどん可笑しくなってくのは、わかってる。 「ソイツ」 でも…止めないで。 「諦めろよ…。」 黎司に言われながらも、私は諦めることはなかった。 毎日おはようと声をかけ、おやすみと言って寝て、その布団を濡らし続けた。 そうしていくうちに、どんどん私は遠くなっていく。 黎司は、そんな私を見て、苛立っていた。 日に日に黎司の苛立ちが増幅していき、とうとう今日、爆発した。 私の頬を叩いた。ヒリヒリと痛い。 「いい加減にしろよ!!付き合わされてる俺の身にもなれよ!!」 黎司の眼は、怒りに狂っていた。 私は、声を出すことができなかった。今の私は、以前よりかなり弱い。 「…俺は勇気のねェお前なんかどうでもいい」 黎司はドスドスと足音を響かせながら、病室のドアを勢いよく開き、そのまま出て行った。 …取り残された。取り残された。取り残された。 私は怯えた。すくむ足を無理やり起こし、病室から出て行った。 そこに残った恭介のからだ。 誰もいなくなったあと、静かな空気が流れる。 そこに開かれる、紅蓮の瞳――――――― 前へ |次へ |
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