《MUMEI》

だから大丈夫
言いながら友人らを二人の前へ
押しやられた友人らは突然のソレに瞬間固まってしまう
「な、なんか固まってない?大丈夫?」
目の前で手をヒラリと振っては見るが反応はない
一体どうしてしまったのか、岡本へと見て直ってみれば
「みんな、二人のファンだから」
相変わらず淡々とした声のまま」
岡本は立ち尽くしている友人らの頬を柔らかくたたきながら
「皆。猫、どう?貰って、くれる?」
それこそ子猫の様な眼で上目見る
皆、、岡本のその仕草にときめいてしまったのか
喜びも露わに猫を受け取っていく
「……皆、ありがと」
頭を下げてやれば皆、岡本のその仕草に弱いのか
一斉に首を横へと振り始める
「……なっちゃん、キイ君。二人も笑顔」
最中、岡本が前野らの脇腹を突いてきた
何故そんな事をと怪訝な表情を浮かべかけた前野へ
村山はその頬を行き成りに抓り、友人らへとサービスと言わんばかりに笑みを浮かべる
皆、二人のファンだから
先の岡本の言葉を思い出し
面倒事を引き受けてもらった例は返さなければ、と
口元に僅かな笑みを浮かべて見せてやった
「ありがとな」
短く礼を言ってやれば友人らは一斉に顔を赤く染め
深々一礼すると、どうしてかその場から逃げる様に走り去っていった
「……まだ初心で可愛いな」
「はぁ?」
その様を眺めていた村山が笑みを浮かべるのを横目見
前野はまた怪訝な顔を浮かべて見せる
「……なっちゃん、キイ君。まだ、全部片付いてない」
岡本の指摘に、未だ家に放ってある犬の群れを思い出す
漸く一方が片付いたかと思えばまた一方
いい加減に頭が痛くなりそうだと前野は頭を抱え込んだ
「……頑張ろ。私も、頑張る」
岡本の励ましに背を押され
取り敢えず前野らはアパートへと帰る事に
玄関先まで戻ってみれば
丁度、大量の犬を引き連れ片平が出かけようとしているところに出くわした
「……どこ行く気だ?片平」
まさか逃げる気なのでは、と指摘してやれば
片平はゆるり前野へと向いて直ってくる
その眼には、涙が滲んでいた
「……泣かれてもね」
いい年下大人だろうと村山も苦笑を浮かべながら
片平の前へと立ち退路を塞いでやる
「何処、行く気だったの?」
先の前野の言葉をまた岡本が問うてやれば
片平はすっかり項垂れてしまい、だが話し始める
「……暫く、ほとぼりが冷めるまでこいつらと旅でもしようかと思って」
なんて理由か
聞いてみれば何とも下らないソレに、最早溜息すら出なくなってしまった
「……本気、馬鹿だな」
ここまでくればいっそ清々しいとさえ思ってしまう
だが馬鹿けた言い分であることには変わらず
前野らは三人顔を見合わせ溜息を付いた
「那智、どうする?」
「……俺に聞くな」
本当に、どうしたものかと悩み始めてしまえば
傍らにいた岡本が二人の服の裾を引いてくる
何か思いついたのか、話を聞いてやるため二人は膝を折った
「……花宮さんに、頼んでみる?」
「は?」
岡本からの突然の提案
何故ここで花宮が出てくるのか、岡本へと向いて直ってみれば
「……お友達、沢山いる。だから」
花宮の仕事仲間に狙いを定めたのか、そんな事を言い出す
後々色々と面倒になる気しかしないのでその手は余り使いたくはない
前野と村山、互いに苦笑を浮かべ見合っていると
「私が、何?」
今から出勤なのか、花宮が二階から降りてくる
丁度いいところに現れてくれたと、皆が花宮の方を見やった
「な、何?皆して」
突然の視線に動揺している花宮に構う事もせず
岡本はゆるり花宮まで歩み寄ると
目の前へと、犬を抱え上げて見せていた
「……犬?」
突然のソレに瞬間驚いた様子の花宮
だがすぐにその愛らしい生き物に表情を綻ばせ
「可愛い――!」
耳を覆いたくなってしまいたくなる程の甲高い叫び声をあげる
「ね、千秋ちゃん、コレどうしたの!?」
存外食いつきが良いようで
花宮は岡本からその犬を受け取ると嬉しそうに頭をなで始めていた
「……片平さん。拾ってきた」
「片平?ああ、あの一回に住んでる見るからに根暗そうな人!」
どうやら覚えては居るらしいがその印象は散々なもので
もう少しまともに覚えては居てやれなかったのかと
流石に同情せざるを得ない

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