《MUMEI》
動く
「今宵!!いい加減に起きなさい!!お母さんこれから仕事なんだから!!」

「んぅ〜・・・・・・」

今宵は布団に包まったまま、加奈子にそっぽを向く。

「まったくもう。あんた昨日午後からずっと寝っぱなしで!!ご飯作っといたから、食べたら片しといて頂戴ね!!」

聞く耳も持たない今宵に諦めたのか、加奈子はそれだけ言うと今宵の部屋から出た。

今宵は母の階段を降りる足音を聞きながらゆっくりと起き上がる。

「あれからずっと寝てたなんて・・・・・・」

今宵はまだしっかりと開かない目をしょぼしょぼとさせながら呟いた。

昨日の午後にまたも突然襲った貧血。

結局あれからほとんど良くなることが無く、ベットから離れることができなかった。

そしてその内にうとうとと睡魔が襲い始め、今日の朝に至る。

あれだけ寝てたのにまだふらふらする・・・・・・。

でも寝てばっかでも悪くなっちゃうよね。

「起きよっかな」

よいしょ、と言う掛け声と共に、今宵は着替えを済ませて部屋を出た。

リビングに入りクーラーの電源を入れると、時計に目をやる。

「うぎゃ。もうお昼時・・・・・・」

今宵が愕然とするのも無理はない。

時計が指している時刻は午前10時過ぎ。

昨日寝始めたであろう時間と照らし合わせてみると、軽く15時間は眠っていた計算になる。

「寝すぎでしょ、さすがに・・・・・・」

今宵は呆れながらため息をつくと、食事の用意してある席についた。

しかし手が勝手にその皿達を奥の方へ押しやる。

「ダメ・・・・・・。気持ち悪い」

今宵は食事の匂いを嗅ぐだけでもきつく、手で鼻と口を覆った。

おっかしいな・・・・・・。

前は食欲は全然あったのに、今は見たくも無い。

お母さんには悪いけど、そのままにしとこ。

今宵は小さく母に向かって謝ると、少しでも食事から遠ざかるようにソファに腰かけた。

「何か、何にもしてないのに疲れた・・・・・・ってうわぁ!!!」

ぐでん、と座っていた今宵のポケットから高音な機械音と振動がする。

び、びっくりした・・・・・・。

今宵は冷や汗をかきながらも、ポケットからその音と振動のもとを取り出してぱこん、と開いた。

「ん、と・・・・・・メールだ。誰から?」

今宵はぱこぱこと操作し、受信メールを開く。

そこには思いもしない人物の名前があった。

「ふ、歩雪くん!!!」

今宵は慌てて本文を読もうと、下へ下へとキーをスクロールする。

「えと・・・・・・何々?」

『今から会いたいんだけど。今家じゃなかったらメール頂戴?家だったら返信しなくていい。』

歩雪らしい簡潔な文面。

今宵はここまで読むと携帯を閉じ、すくっと立ち上がった。

その表情は先ほどの具合悪そうなことを感じさせないほど明るく輝いる。

「着替えてこよ!!!」

今宵は鼻歌でも歌いだしかねない勢いでルンルンと階段を上り、自室を目指す。

歩雪くんと会うの久しぶり〜♪

何着よっかな?

今宵は部屋に入るなり、クローゼットを開き中を物色する。

「これかな?それともこれ?あ、でもあれがいいかも!!!」

何かを思い出したように今両手に持っている服を放り出し、下の方を弄ろうとしゃがみこんだ瞬間。

「ぁ・・・・・・」

今宵の体がくらっと床に転がる。

何、これ・・・・・?

今までのと全然違う・・・・・・。

起き上がれない・・・・・・。

おかしい、と朦朧とする意識の片隅で思ったが、それ以上思考することが出来なかった。

歩雪、くん・・・・・・。

今宵は会いたい相手を思い浮かべると、そのまま意識を失った。

―動き始めた事態に気づいたのはまだ1人。

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