《MUMEI》
3日前
 体調が急激に悪化したのはこの頃からだった
咳が喉を吐いて出、呼吸さえもままならない
ベッドから起き上がる事も出来ず、蹲るばかりの自分の傍ら
妻は心配そうな顔ばかりしている
そんな顔を、させたい訳じゃないのに
どうして、身体を病んだのが自分だったのだろう
どうして、他の人間じゃなかったのだろう
そんな事を考えてしまう自分に、嫌悪感ばかりが先に立つ
後、2日しかないのに
歯痒さに奥歯を噛み締めながら何とか身を起こし
妻の身体を抱き寄せる
抱きしめた、つもりだった。だが力が入らずに縋りつく様な様になってしまっていた
「……今日は、本当駄目だな」
余りに惨めで情けなかった
このままでは自分は妻の重荷になるばかりなのでは、と
喉の奥に、嫌な味を感じる
何か、食べられそうですか?
何も言う事が出来ず、顔をうつむかせてしまっていた自分へ
妻は努めて普段通りに問うてくる
見せてくれて微笑みに自分は暫く間をおいた後
「……また、粥が食いたい。頼めるか?」
何とか食べれそうなソレを伝えてやれば
食べる事が出来るという事に妻は喜んでくれ、直ぐ作るからと台所へ
その背を見送り、自分はソファへと身を寛がせた
「天気、悪ィな」
薄ぼんやりと、霞んだ空
まるで自分の様だと唯々ソレを眺め見る
どれ位そうしていたのか、ふわり甘い香りが漂ってきた
今日はミルク粥にしてみました
完成した粥を盆に乗せた妻がソレを自分の膝上へ
蓮華を差し出され、受け取ると一口
柔らかなミルクの甘さに、全身の怠さが若干だが和らいだような気がした
「……美味い」
一言言って返してやれば、不意に背後から妻の腕が自分を抱いてきた
もう少し、もう少し、生きて下さい
そうすれば自分も一緒に逝くことが出来るからと
訴えてくる声が微かに涙で歪んでいたのだった……

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