《MUMEI》
2日前
 妻が、風邪を引いた
朝、起きてみれば大体先に起きている筈の妻の姿が隣のベッドにあった
どうかしたのか、額へと何気なく触れてみればソコは随分と熱く
自分は何とか身を起こすと手近に在ったタオルを持ち台所へ
濡らして絞ると、それを妻の額の上へ
ごめんなさい、迷惑をかけてしまって
謝ってしまう妻へ自分は首を横へふる
「ゆっくり休め。な」
身体を起こそうとする妻をやんわりと押し戻し
家事に動くことを始めた
掃除・洗濯・炊事に給仕
その全てをこなせば、時は既に昼
昼食を作ろうと台所へと立つ
さて、何を作ろうか
暫く考え、そして作り始めたのは野菜スープ
作ったソレにパンを添え妻の元へ
「食べれるか?」
起こそうとするその身を支えてやれば小さく頷いてくれた
一口食べると美味しいと表情を綻ばせ、そして
昨日と逆ですね、と笑ってくれた
「……頼りないかもだけど、こういう時位は頼ってくれていいから」
それ位しか出来ないのだから、と苦笑を浮かべてしまえば
妻はゆるゆると首を横へ振り
スプーンを置いたかと思えば、昨日自分と同じように妻がその腕に自分を抱いてきた
あなたは何時もそうやって私を甘やかす
若干拗ねたような口調に顔を覗き込んでやれば
頬には大粒の涙が、伝っていた
「……どうした?」
伝っては降ってくる涙をぬぐってやれば妻は首を横へと振って見せる
何故、涙が出るのだろう
自分でも何故涙が出るのかが分からないと眼をこする
「……お前だけじゃない。俺も、怖いよ」
全てを失ってしまう、その日が段々と近くなっていくことが
だから一人で抱え込むことだけはやめてほしい
目元をこする手を止めてやりながら
すっかり腫れてしまった妻の目元を、何度も撫でてやったのだった……

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