《MUMEI》
Case3 ENDroll
 迎えた朝は、いつも通りだった
眼が覚め、朝を迎えられた事に安堵する
世界が滅んでしまう、この日を
お早う御座います
いつも通りの妻の声、そして交わす普段通りの会話
昨日、食べたいと言ったものが並んだ食卓を妻と囲み
穏やかなひと時が流れた、次の瞬間
世界が割れる様な音が響き、地鳴りが起る
そして同時に自分の心臓が、壊れてしまうのではと思うほどにひどく痛み始めた
もう、終わってしまう。自分も、そして世界も
恐ろしいはずのそれが、だが余りそう感じないのは
やはり、傍らに大切な存在があったからだ
薄れていく意識を何とか保ちながら、妻の身体を必死に抱きしめる
決して、離す事はしないから、と
最早声すら出せなくなってしまっていたが
その想いだけでも伝わってくれれば、と更に強く抱いていた
私も、離れません。ずっと、あなたの傍に居ます
耳に心地の良い妻の声
この声にどれ程救われてきたか
自分が生きる事を諦める事無く(この日)を迎える事が出来たのは
妻が居てくれたからなのだと
世界が終わるこの日にあっても、それだけは嬉しかった
本当に、自分は最低だ
この状況下にあって、嬉しいなどと笑みを浮かべるのだから
「……あ、りが、とな」
思う様に発せない声を何とか絞り出し伝えた感謝の言葉
伝えた途端、それまで気丈にふるまっていた妻の目に涙が滲む
何度も何度も首を横へと振りながら
今日まで生きてくれて、私と一緒に今日を迎えてくれてありがとうございます
流れる涙の中に見せてくれた笑顔
互いに想う事は同じだったのだと、自分も笑みを浮かべ
壊れ逝く世界の音を間近に聞きながら
自分は保っていた意識をその瞬間に手放したのだった……



Dear 橘 隆盛 様
私と一緒に生きてくれて、ありがとうございます
あなたのそばに居られて、私はとても幸せでした
そしてあなたを一人先に逝かせずに済んだことも
もし、生まれ変わってまた一緒にご飯が食べれるなら
また、メニューを考えて、私に言ってください。私、頑張って作ります
隆盛さん。ずっと、ずっと大好きです
                   From     より

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