《MUMEI》
Case4
 世界が俄かに騒々しくなった
世界の寿命が尽きる、すべてが死んでしまうのだと
もしそうだとしたら、それこそ騒ぎ立てる必要などないような気がする
世界が終わればその瞬間、すべてが終わってしまうのだから
「騒ぐ必要、ねぇと思うんだがな」
皆が皆同時に終わるのならば余り怖いとは思わない
そう考えてしまうのはおかしいのだろうかと
中心街を当てもなくふらついていた、その時だった
赤信号で止まっていた群衆の中から一人、女性が車道へと飛び出したのは
「危ねぇ!!」
行き成りのソレに驚き、自分は咄嗟にその女性の腕を引く
勢いよく引っ張り過ぎたせいか
彼女の身体を受け止めたと同時に自分もその場へと倒れこむ羽目に
瞬間、ざわつく周囲
「すんません。何でもないんで」
当然注目を集めてしまう彼女を周りの視線から隠してやる様に
手首をつかむと人の流れに逆らって歩き出す
彼女からの反応は、ない
「……なんか、言えよ」
痺れを切らし、声をかけても返る声はなく
掴んでいた手は無下に振り払われてしまった
睨むように向けられた視線。その目元には涙が滲んでいた
それは段々と溢れ、直ぐに頬を伝い始める
何故、死なせてくれなかったのか
責める様なソレに、自分は何を返す事も出来なかった
「何が、そんなに怖いの?」
この状況下で自ら死を望むほどに
問うたそれに返ってくる声はやはりなく
彼女は自分へと一瞥を向けると身を翻しその場を後に
その後ろ姿から、自分はどうしてか眼を離せずにいたのだった……

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