《MUMEI》
7日目
 「こんな所で何してんの?」
翌日、何気なく出掛けた先
歩道橋の上に見覚えのある人影を見つけた
そこから唯ぼんやりと舌を眺めていたその人物に、自分は見覚えがあった
昨日の、自殺志願者
「今度はこっから飛び降りるつもりだった?」
声を掛けてやれば、その身体がビクリと震え
ゆるり向き直ってきた彼女は自分を見るなり、あからさまに怪訝な顔をして見せる
何か、用?
つっけんどんなその物言いに、だが自分は気にする事もせず
彼女の横へと並んで立った
そして彼女が見ていた景色を見るため、同じ様に舌を向く
流れる、車の群れ
この中に飛び込んでしまえば、人など一溜りもないだろう
「やめた方がいいと思うよ。事故起こすと、渋滞起きるし」
重たく聞こえないような軽口
ソレを揶揄われているとでも取ったのか
彼女の手が自分の頬を打ってきた
アンタに、何が分かるの、と
「……分かんねぇよ。こんな状況で死にたがる奴の気持ちなんてな!」
若干強めの口調で言って向ければ
彼女は涙を溜めた目で更に睨んでくる
一体、何が彼女を死に固執させるのか
分かる筈もない自分はそれ以上何を言う事もせず
唯無言で彼女と対峙するばかりだ
どれ程、そこでそうして居ただろうか
痺れを切らしたのは、自分
彼女に一瞥を向けてやり、身を翻す
「本気で死にたいなら、人目の付かねぇとこでやれば?」
自分だって見えなければ止める事などしない
途中、態々首だけを振り向かせ
突き放すように返してやるとそのまま歩き出す
自分と彼女の距離が段々と離れていくにつれ
彼女が涙にしゃくりあげる声が耳に付く
死ねなかった事への悔しさか、それとも自分が発した言葉への憤りか
だがいくら泣かれたとしても
自分にはそれ以上、何を言う事も出来なかったのだった……

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