《MUMEI》
3日前
 「手首、見せて」
翌日、また自分は彼女の部屋を訪れていた
先々日付けてしまった傷の様子を見ようと彼女の袖をたくし上げれば
そこにはまだ血が滲んでいた
見るに痛々しいソレに自分は舌打ちながらガーゼと包帯を替えてやる
「もう、しないでよ。こんな事」
懇願するように言ってやれば
彼女はわずかに驚いた様に顔をあげて来た
何かおかしな事でも言ってしまっただろうかと彼女の方を見やれば
目の前に、泣き顔があった
「どしたの?」
頬を伝っていくソレを拭ってやれば
彼女はまるで子供がするように首を横へと振りながら何でもないを返してくる
「何でもないって顔じゃ、ないね」
今、ここにきても彼女は素直には語ってはくれない
どうしたのか、どうしたいのかを
「話したく、ない?俺じゃ、頼りになんない?」
ほんの些細な事でも不安があるのなら取り除いてやりたかった
柔らかく強制してやれば、彼女の腕が自分を抱きしめてくる
暫く、こうしてていい?
苦しいほどに抱きしめられながら、だがそう頼まれてしまえば
否など返せる筈もない
「……俺は、生きてく為に役に立ちそう?」
手近な存在にと求めてくれる程度には役立ててくれている
今は、その程度で充分だった
深い関係など、今互いの間には必要ない
後2日、2日ですべては終わってしまうのだから
そんな事をぼんやりと考えていると
――
彼女の声が、何かを呟いた
それが、彼女の恋人の名前であった事に気付いたのはすぐ
自分が今だけは代わりになってやろうと何を返せば
抱く腕がさらに強く自分を抱き、そして
ごめんね、あんな事言って
もう届く事のない想い人への謝罪を口にする
「全然、気にしてないから。だから、気にしないでよ」
その相手が、こう言ったかは分からない
だがもし、この一言で彼女が救われてくれればと
自分は何度もその言葉を繰り返してやったのだった……

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