《MUMEI》

 「……こいつ、何なんだよ?」
突然の訪問だった
訪ねてきたのは、両親と見慣れないもう一人
一体それは誰で、何をしに来たのかと
小野坂 良はあからさまに怪訝な表情を浮かべて顔を逸らす
「これか?これは(セラピノイド)。私達が作った機械人形だ」
人を拒絶する様な小野坂のソレに、両親は苦笑を浮かべながら
その人物の説明を始めた
セラピノイド、聞き馴染のない単語
そんなものを何故自分にと、小野坂は更に表情を歪めて見せる
「お前に、モニタリングを頼みたいんだよ。良」
「……モニタリング?」
「そう。これは(癒す)事に特化した機械人形だ。その性能を試して貰いたいんだ」
ああ、道理で
そういう理由がなければこの両親が態々訪ねてくるはずがない
小野坂は僅かに肩を揺らし、だがすぐに短く断るを返していた
「そいつが(ヒト)じゃなくても、何かと一緒に居るのは、面倒くさい」
「良……」
「大体、モニターなら俺じゃなくてもいいだろ。俺には関係――!?」
無い、とは最後まで言えなかった
途中、その機械人形が小野坂の身体を背後か抱いてきたからだ
「初めまして。マスタ―」
強く抱かれ、耳元に寄せられる声
人の肉声に限りなく近く、だが触れてくる体温はまるでなく
ひやりと感じるソレに、相手が機会なのだと言う事を実感させられる
「……離せ」
身動きが取れず、そう凄んでやれば
その機械人形は、だが小野坂を離す事はしなかった
そんなやり取りを暫く続けていると
両親は互いに顔を見合わせながら
「じゃ、私たちはこれで帰るから。それの事、宜しく頼む」
その場を後にしていた
ソレを無言で見送ると、小野坂は相手へと改めて離せを訴える
漸く聞き入れられ、その腕は離された
「……マスター、自分は何をすればいいですか?」
見上げるほどある身長差を縮めるため、相手は片膝を付きながら
高揚に小野坂を見上げてくる
掬う様に取られた手がやけに意識され、小野坂は慌てて手を離す
「マスター?」
どうしたのかと小首を傾げられ
だが小野坂は何を言う事もなく、踵を返すと逃げるように外へ
「待って下さい!」
出ようとしたその腕を相手に掴まれ、止められた
手離せと喚き散らしてやろうとした寸前
相手の顔が息が触れそうな程間近にあった
否、機械に呼吸などありはしないのだが、近すぎるソレについそんな錯覚を覚えてしまう
「……顔が、近い」
ソレを指摘してやれば相手はすぐさま身を引き
困った様な表情をして見せる
だから、感情あるモノは苦手だ
表情で相手のそれが解ってしまうのだから
「俺は、ヒトじゃないですよ」
つい口に出してしまっていたらしいソレに返ってきた声
それは、理解している
触れてくるこの手に温もりある体温はない
だが聞こえる声、向けてくる表情はあまりに人に酷似していた
「……まずは、俺に慣れて下さい。誰かと居る事に」
一体、このヒトを模した機械は何処まで自分を理解しているのか
解らない、読めない表情に小野坂はもどかしさを覚える
「……ヒト、苦手なんだよ」
「どうして?」
「他人と居たって、気ィばっか遣って疲れるし」
「俺には遣う必要なんてないです」
「息が、詰まりそうになるし」
「なら。俺と息しましょう」
一緒に、と頬へと手が触れてくる
呼吸を必要としない機械のくせに、と言いかけて止めた
ヒトでないのなら、その存在の全てが作り物だと思えば
一緒に居られる気がした
「……良で、いいから」
「はい?」
「俺の、呼び方。マスターなんてのは、鬱陶しい」
それは小野坂なりの意思表示だった。傍に在ってもいいという
理解したのか、相手は相変わらずの笑みを浮かべながら
「分かりました。良」
これから宜しくと柔らかく掬われた手
甲へと唇を触れさせてくる相手に
小野坂は何を言う事も出来なかった……

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