《MUMEI》

「でも、このアパートってペット禁止でしょ?どうするの?こんなに」
片手に犬たちと戯れながらの花宮のソレに
前野、村山は同時に溜息をつく
中々良案が思いつかない旨を花宮へと訴えてみれば
「それで?私の仕事仲間にどうかって事になった訳ね」
「そう言う事。宛てはありそう?」
「ない事もないわよ。ちょっと待ってて」
携帯を取り出し、掛け始める花宮
同じ内容のソレを複数にかけ暫く後
アパートへ、大勢押しかけてくる
「花み〜、来てあげたわよ」
花宮の仕事仲間が来るものだとてっきり思っていた
だが来たのはなぜか、皆ニューハーフだった
「……花宮。これ、どういう事だ?」
ごつ過ぎるその集団に顔を引き攣らせてしまえば
集団の視線が一斉に前野らへと向けられる
見るべきは犬であり、自分達ではない
そう突っ込んでやろうとした矢先に
「あら、噂通りのいい男〜」
標的が前野・村山へと定められた
これがせめて普通の女連中だったならばまだ良かった
だが現実は、女装した、ごつい男連中
身体が無意識に逃げの体勢を取ってしまうのも仕方がない
「なっちゃん、キイ君。スマイル、スマイル」
この状況で中々に難しい事を言ってくる岡本
動物たちを引き受けて貰うのだからせめてサービスを
そういう考えなのだろうが、人間出来る事と出来ない事がやはりある訳で
「ちょっと皆、落ち着きなさいよ。こいつらドン引きしてるじゃない」
見るに見兼ねたらしい花宮が集団を制しに掛る
連中はさも残念そうに、だが花宮の言う事を聞いていた
旨を互いに撫で下ろしながら
結局の処、犬は引き取って貰えるのかを問うていた
「それなら大丈夫だと思うわよ。プライベートに潤いがない連中ばっかりだから」
散々な言い様だが、否定も出来ない
結局何を言う事も出来ないまま、だが仔犬はその連中が引き受けてくれる事に
「……静かになったな」
それまで動物達が溢れていたロビー
静けさを取り戻し、漸く肩を撫で下ろす
「けど、静かすぎるんじゃないか?」
「喧しいよりはいいだろ」
身も蓋もない前野のソレに村山は苦笑を浮かべる
つまり少なからず村山もそう思っていたらしい
「……なっちゃん、キイ君」
二人同時に溜息に肩を降ろした直後
背後から聞こえてきた岡本の呼ぶ声に向いて直ってみれば
顔の間近に、一匹の子猫の顔があった
「千秋、こいつどうした?」
微かな声で鳴く仔猫
その無垢な可愛さについ構ってしまいながら問う
オンかもとは僅かに視線をソファの方へと向け
「そこのソファの陰に隠れてた。まだ小さい」
何かを訴える様に前野を見上げてきた
その何かを前野は瞬間理解し、暫く岡本と互いに見合った後
溜息を一つ吐いて返した
「そいつ一匹位なら飼ってやるから。それこそ捨てられそうな子猫みたいな顔すんな」
「本当?」
「その代わりお前、毎日来て世話しろよ」
それが条件だと続けてやれば頷く岡本
見てはっきりと解る程嬉しそうなn表情を浮かべて見せる
「ありがと。なっちゃん」
「良かったね、千秋」
「うん。キイ君も、ありがと」
よほど嬉しいらしい岡本の様子に、前野らは顔を見合わせ肩を揺らす
何だかんだで二人、岡本の笑顔には弱いらしかった
事も収拾にに至り、穏やかな空気がその場に満ちた、その直後
館内の一角から泣き叫ぶ様な声が聞こえてきた
普段なら住人のソレなど気に掛ける事もしないのだが
余りに喧しく耳に障るので、一応は向かってみる
「……やっぱ此処か」
声の出どころは一階、107号室
その戸を容赦なく足で蹴り開けてみれば
中ではその部屋の主が泣いて喚いている姿があった
「……テメェが一番喧しいわ」
いい加減、苛立ちもピークに至り
前野の人相が段々と凶悪そうなソレへと変わっていく
「那智、なんか今にも人殺しそうな面になってるぞ」
「……なっちゃん、落ち着いて」
二人からたしなめられるが最早限界で
このままでは前野が暴れ出しかねないと判断したのか
「……片平さん、お散歩行こ」
岡本がそう切り出してきた
意外なその行動に岡本の方を見やれば

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