《MUMEI》 結婚で。今朝、些細な事で喧嘩したまま家を出た。出社して頭が段々冷えてくるに従い、ある事実に気付く。 最近、俺は妻を怒らせたり泣かせてばかりいる。 −−妻の笑顔を見たのは何時の事だろう−− 思い出せない位、遥か昔の様な気がする。 −−あれほど良く笑う奴だったのに−− どんな俺が、妻を微笑ませていたのか、解らずに帰宅出来ずに、夕暮れの街をさ迷っていた。 「あ、此処は…」 いつの間にか街外れにまで歩いていたらしい。目の前にあるのは、古い教会。 もう15年も前に、俺と妻は此処で、こっそりと二人だけの結婚の真似事をした。俺も妻も同性なので、本当の結婚など出来ないからだ。 それでも、神の前で幸せになると誓い、約束のキスを交わした。 あの日、妻の涙に潤んだ瞳での笑顔は最高に輝いていた。 ***** 『何か、お悩みですか?』 不意に声をかけられ、振り向くと金髪碧眼の若い神父様が立っていた。 『先程から、教会を眺めて溜め息を吐かれていたので…』 容姿を裏切り、流暢な日本語で話す神父様に戸惑う。 『良ければ、お話して行きませんか?』 にこにこ笑顔に促され、遠慮せずにと手を引かれ教会へ導かれた。 ***** 『成る程、それで奥様を微笑ませる術を探して悩んでおられたのですね?』 「えぇ、15年間も一番傍にいたのに…お恥ずかしい話でして」 『いいえ、恥ずかしい事など、ありませんよ。』 神父様は、紅茶を俺の前に置き、向かいのソファーへ座った。 『長く連れ添えば、我儘が出て、相手を思いやる気持ちを忘れてしまうものです。でも貴方は、ご自分よりも奥様の事を思って悩まれている。』 『そのお気持ちが貴方にある限り、何度でもやり直す事は可能ですよ』 「そうでしょうか?まだ大丈夫でしょうか?」 『ええ』 と、力強く頷き神父様は、ふふっと思い出し笑いを漏らした。 「何か?」 前へ |次へ |
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