《MUMEI》

今日は団体でバスで観光だ。
酔わないように窓際の席で風に当たる。本当は寝るのが1番いいんだけど、全く眠れない。


隣で俺に肩を預けて爆睡している男が気になるからだ……と思う。


「木下、解りやすい」
同じ並びの補助席に座る南に指摘された。



「えっ。ごめん」
顔に出ていた?見られないように下を向いた。


「俺に謝られても。

いいんでない?自然な流れで見てたなら。足元ばっかり集中してると酔うよ?」


「からかっている?」
からかっているだろう!
俺を困らせて喜んでいるんだろう!


「いや、木下の反応面白いよねー……。つい関わりたくなる。」
南は含み笑いをした。
Sの化身だ……。


「なにそれ」


「愛情表現?」
誰か席替えて下さい。


「要らない……」
心の底から思った。
嫌がられることが彼なりの親愛の証なのか?
流石、変態血族だ……


「なんか、反応が良すぎて可愛いよ。


先にこの馬鹿が気がついた訳だけれど。」
七生の頬が引っ張られて顔が変形している。
南がしおりを筒状にして俺の耳に当て、糸電話みたいにする。

「口説きたくなるよ」
なんだそれ!
南ってこーゆーキャラだったか?また俺をからかって!

「まあ、彼女いるしそちらも相手がいるからしませんけど。」



「ええ!」
いるのか!二重衝撃。

「えーと、女?」
一応確認。


「彼女って言ったけど?」
意外だ……。
てか、この盗撮S男と上手くやっていける彼女を見てみたい。

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