《MUMEI》

なのに、何故行ってしまったのか?それは、彼が就職してきてから丁度一年が経とうとしたときだった。会社の食事会で社長が突然みんなの前で彼の移動を発表したからだ。場所はここから車で三時間はかかる。彼のアパートからは電車を乗り継いで、乗り換えの間の待ち時間も合わせると一時間半かかる。まあ、ここからすれば物凄く都会だ。社長はそこにある自分が経営している別の店舗へ、彼を店長候補として送ることを決めたらしい。
彼は、少し寂しいそうな顔で、社長の横に立っていた。後から聞いた話では社長が皆に発表する十五分程前に、彼は初めて聞かされたらしい。
彼がトイレに立ったのを見て、私も少し後から彼を追いかけるようにトイレに向かった。
彼は丁度、トイレを済ませ出てきたところだった。
『…行っちゃうの?』
彼の前に立って、私は聞いた。『うん。きっともう僕等、会えなくなるよ。』
『……、寂しいね。』
そう言うと、彼は私を優しく抱き寄せてきた。外人ならハグくらい当たり前なのかもしれない、その時そう思った私は何も抵抗せずにそれに応じた。

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