《MUMEI》

次の日、仕事先で彼に、
“僕が移動する前に食事に行こう”
と誘われた。移動したらもう逢うことはないだろうと思った私は、一回位ならいいかなとそれに承諾した。ただしやはり直弥には内緒で。彼もそれに同意した。


あくる日、電車に乗って彼のアパートに近い最寄の駅で下車した。その頃私はまだ彼のアパートの行き方を知らなかったのだ。
彼に着いたことを電話すると、
“三分で着くから待ってて”

と言って電話を切られた。

一人でぼーっと、駅前のパン屋に目をやる。
直弥の顔が、頭に浮かんだ。
…ごめん、直弥。
心の中でそう呟く。いきなり後ろから両肩を思い切り叩かれた。後ろを振り向くと、満面の笑みを浮かべた直弥ではない、彼が立っていた。

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