《MUMEI》
予感
―ピーンポーン♪

今宵の家にインターホン特有の音が響く。

「・・・・・・おかしいな」

しばらく待っても開く気配の無いドアを前に、歩雪は首を傾げる。

もしかして・・・・・・会うつもりが無いから、とか?

まぁ顔合わせ辛くさせた上に突然家に来た俺が悪いんだけど。

「どうしよう」

このまま帰るわけにはいかないし、と歩雪はドアの取っ手に手をかけて手前に引いてみた。

「あ」

開いた。

ドアはいとも簡単に開かれ、中には人がいるということが分かる。

歩雪は小さく息を吸い込み声をかけてみた。

「こんにちはー」

無言の家にこの声が響くが、また再び静けさを取り戻す。

歩雪はしばらく迷った挙句、足を玄関に踏み入れた。

お邪魔します、と一応呟くと、リビングの方に足を伸ばす。

「こんにちは」

歩雪はそう言いながらドアを開けると、部屋の中を覗き込んだ。

隅々まで見渡してみるが、人の気配は無い。

「寒・・・・・・」

しかし冷気が部屋中を包んでいた。

歩雪はその冷気の元を見上げる。

「クーラーはついてるんだ」

これだけ部屋が冷えているということは、ずいぶん前から電源を入れていたということ。

しかもこんなに肌寒く感じるほどに冷やされているということは、つけたっきりこの部屋に人は戻ってきていないということ。

「・・・・・・こー」

嫌な予感がする。

歩雪は直感的に感じ取ると、今宵のいそうな場所を見て廻った。

台所、トイレ、物置部屋。

しかしどこも空っぽ。

歩雪は階段を上り、まだ見ていない部屋、今宵の部屋の前まで来た。

「こー。いる?」

軽くノックをしてみるが、返事は返ってこない。

何だろ?この嫌な感じ・・・・・・。

「入るよ」

歩雪は返事が返ってこない部屋のドア開ける。

そこに広がっていた光景は、予想もしていなかったものだった。

「こー!!?」

歩雪はクローゼットの前で倒れこんでいる今宵に慌てて駆け寄る。

「こー!!どうしたんだよ!!こー!!」

歩雪は今宵の体を腕に抱えて大声で呼びかけるが返事は無い。

意識が無い・・・・・・。

救急車!!加奈子さんにも連絡とらないと!!

我に返った歩雪は携帯を取り出し最初に救急車、次に加奈子の携帯に連絡をした。

「こー!!!」

身動き一つしない今宵にできることは呼びかけることしかなかった。

どうしていきなりこんなことに・・・・・・。

笑った顔見せてよ、こー。

歩雪は必死に呼びかけながら今宵の笑顔を思い浮かべていた。

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