《MUMEI》

足掻け。たとえその様がどれ程に無様でも
「そう。あなたにも、ほかの13にも、救われる権利はある」
少女は僅かに表情を緩ませながら坂下の頬へと手を触れさせる
引き寄せられたかと思えば、互いの唇が触れた
「……私はまだ一緒にはいてあげられない。だから逃げて。あの人から」
「逃げる、ね」
「あの人の救済は、殺す事だと思っているから」
そうならない様にと続け、少女は身を翻しその場を後に
残された坂下は一人、その場へと立ち尽くし
今、自分の身に何が起きているのかを整理しようと試みる
が、そう簡単な事ではなく、早々に考える事を止めてしまっていた
「……取り敢えずは、逃げて、殺す」
そうすれば自分が一番に死ぬ事はない
救われる権利が自分にも本当にあるのならばと
坂下は手の中の刀を握り返し歩き出す
まずは、何処へ行こうか
辺りを見回しながら目的無く歩いていると
背後から視線を感じた
そちらへと向いて直ってみればソコに立つ誰か
覚束ない脚元、見えた表情はまるで死んだ様なソレで
その誰かが坂下へと徐に手に持っていた銃を、その銃口を向けてきた
「……あんたも、13なんでしょ。死んで、くれない?私の、為に」
同時に鳴った発砲音
だがその狙いは坂下から逸れ、土を無意味に打ち抜く
「……私は、死にたくない。だから――」
だから代わりに死ねとでも言うのか
……死にたくは、ない
それはヒトとして当然の感情で
坂下とて、例外ではなかった
「……死ぬのは、テメェだ」
自身としての感情が、徐々に薄れていく感覚
だが、喪失感はない
手の中にある刀が今の自分の全てだと
坂下はソレを握り返し、相手へと差し向ける
間をおいたのは、一瞬
坂下自身驚くほど身体は身軽に動き、相手を捉える
殺す事など容易だ、と
口元に歪な笑みを浮かべ、手の中の獲物をまるで自身の手足の様に操り始めた
相手の首を刎ねる感触、飛び散る血液
足元へと転がってきたその首を拾い上げ
坂下は歪な笑みを浮かべて見せる
「……お母さん!」
その場を後にしようと踵を返した瞬間
背後から聞こえてきた子供の声
一応は向いて直ってみればソコに
地塗れになった肢体に縋りついて泣くその姿があった
「どして……。お母さん……」
子供に現状を理解知ろというのは流石に無理なようで
その子供は涙を目尻に溜めたまま、坂下を睨み付けていた
「……返して。お母さん、返してよ!」
「無理」
「何で……、なんで!?」
「うるせぇな。大体、先に仕掛けてきたの、そっちだろ」
自分はソレに応じただけだと無い表情を返せば
少女はさらに涙を溜め、そして母親の傍らに転がったままの刀を拾い上げる
「……こんな世界、なんて、13なんて、大嫌い!」
「……気が合うな。俺も、嫌いだよ」
いっそ全て滅んでしまえばいいと思う程に
人を愛してはくれない世界など、、当然人からも愛されはしないのだ
「……そか。なくなれば、いいんだよな。こんな世界」
至極、簡単な事
何故こんな単純事に気付けずにいたのか
坂下は段々と笑う声を上げ始めた
「全員殺して、全部壊せばソレで終わる」
腹筋を引き攣らせるほどに笑った後
坂下は徐に少女へと手を差し出す
「……一緒に、くるか?」
何故そんな事を言い出したのか
坂下自身にも分からず、だが何故かそうしなければという感覚に陥った
だが少女は首を横へ振る
当然だろう、自分の母親を殺した相手になど
「……俺が、憎いんだろ。一緒に来れば、殺せるかもだぞ」
肢体の傍らに転がる銃を拾い上げ差し出してやれば
少女は眼を見開き、だがソレを取る事を躊躇する
所詮は子供かと肩を揺らした次の瞬間
発砲音が、響いた
肩に感じる激痛
向けられる銃口は小刻みに振るえ、その無行為は少女の泣き顔
罪悪感が微かに、胸の内に現れる
そんなものは要らない
殺さなければ殺されてしまう、こんな状況下では
「……満足、したか?」
傷口から流れ出る血液で濡れた手で少女の頬に触れ
白く柔らかな肌を朱い筋で汚す
「お前もここまで堕ちて来いよ」
そうすれば、楽になれる
口元に歪な弧を浮かべ見せれば
少女の目が見開き、そして涙が頬を伝った

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