《MUMEI》

そして坂下の服の裾を引くと声を上げ泣き始める
耳に煩わしいと思いながらも
未だ僅かにばかり残る罪悪感が少女の身体を坂下に抱かせた
せめて泣き止むことが出来るまで
そんな矛盾したことを考えながら、暫くその場を動けずにいると
目の前に、鳥が一羽降りてきた
あの男に付き従っていた鷹の目と呼ばれている取り
何故こんな所に居るのか、何をしに来たのか
様子をうかがっていると鷹の目は坂下が持つ首へと嘴を伸ばすn
反射的に手を離してしまえば
鷹の目はそのまま首を咥え飛び去ってしまう
「お母さん!!」
咄嗟に少女が追いかけるが如何せん相手は鳥
空へと飛んで逃げられてしまえば最早手立てはない
しかし、鷹の目が飛んでいった方向へ行ってみれば何かわかるかも、と
坂下は少女を荷の様に小脇に担ぐと走り出していた
「は、離して!!」
「喋るな。舌噛むぞ」
その一言で少女を黙らせ、坂下は鳥の後を追う
暫く走り、そして辿り着いたソコは
社が一つだけ立つ、だだっ広い場所
その社の前、坂下は見覚えのある後ろ姿を見つける
「……お前か」
坂下の気配に気づき、ゆるり向き直ってきた相手
その顔はどうしたのか血でひどく汚れていた
何事かと問うより前に、坂下は相手が何かを手に持っていることに気付く
それは先に鷹の目が持ち去った女性の首
だがそれは既に原型は留めてはなく、醜く噛み砕かれていた
「……葬式、だ」
口元に血を滴らせながら相手は歪んだ笑みを浮かべる
その足元には噛み砕いたであろう骨の欠片が散乱していた
「ソコの娘」
徐に、脚手が少女を呼べば
低いその声に少女は恐怖を感じたのか身を震わせ坂下の後ろへと反射的に隠れる
「お前の母親の好きな花は何だった?」 
「……お花?」
唐突な問い掛けに少女は震える声でまた問うて返す
相手は少女へと一瞥をくれてやり、そしてその場を後にする
結局その意図は解らないままで
少女は崩れるようにその場へと座り込んだ
「……なんで、そんな事、聞くの?もう、関係ないのに」
母親がその鼻を愛でる事はもう二度とない
何の意味もない問い掛けだと、少女はまた泣く声を上げ始め
坂下はその様を、唯々見やる事しか出来ずにいたのだった……

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