《MUMEI》

誰かの足音が聞こえた

俺の前で立ち止まった足音
この足音は、春馬さんだ

俺の隣に寝そべったみたいだな

陽射しと潮風

会話はない

どの位時間がすぎたのかな?

タバコの匂いがしたんだ

おもむろに体を起こし、手を出した

タバコをねだったんだ

未成年の俺に、タバコを差し出す春馬さん

美味くねーな、

呟いた俺に

飯食いに行こうぜ

そう、春馬さんが言ったんだよね

春馬さんが単車だった
イタリアの有名なVtwinの大型バイク

真っ赤なフォルムに、低いハンドル

真夏なのに革のパンツ

西湘パイパスを、猛スピードで車の間を縫って走り、箱根の峠へ

直線は、排気量で負けてるけど
俺の方が早い

バンクさせたバイクで、ジーンズの膝が地面と擦れる

立ち上がりで春馬さんを抜いた
そして、次のコーナーへ

ブレーキングの時自分の体重を使って、加重を抜く脱Gだ

これによってタイヤのグリップ限界を高め
フロントフォークの沈み込みを抑えると、
コーナーが楽になるんだ

レーサーでも、一部の人しか使わない高等技術だ

アクセルオンで後輪が小さくスライドした

単車を起こしながら更にアクセルを開けていく

持ち上がるフロントタイヤを体重でねじ伏せるよう
全靴姿勢でフル加速

そして、また、脱Gしながらブレーキング

春馬さんはミラーにも映らなくなったよ

峠を下り終えたとこで待ってたんだ

そして合流して、海まで走った

単車に乗って数ヶ月

これだけでも、俺が通常の人間じゃ無いって、わかるよな

早いな

うん、まだ、詰めれるよ

街中じゃ止めとけ

そうだね

刺し身食おうぜ

うん

短い会話だった



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