《MUMEI》 救い足りない天使その日、天使は笑っていた。かつてない至福に、経験のない喜びが己を支配していた。 時は数時間前に遡る。 その時、天使は暇を持て余していた。 「なんだかなぁ…」 その天使は天使なのに心から笑うことができなかった。 理由は簡単だった。 天使は多くの生き物達を天に導いたり、助けたりするのが役目だが今の自分にはやることがないのだ、正確には役目を回されていないんだが… 「はぁ…なんで上手くいかないかなぁ…」 腕は悪い方ではない、むしろ良すぎるぐらいだ、それが悪かった。その事実が今の自分の状態を招いてしまった。 彼は人が悪い方ではない、もちろん天使にも人の善い悪いぐらいある。目の前に困っている人がいれば自分の事を放り出しても助けに行くぐらい自分は善行者だ。ある意味では模範的ともとれる性格だがその性格が凶を呼んだ。 それが先輩天使のイジメだった。物理的にでは無く、間接的な形のイジメとして、それがある意味天使にとって生きがいとも言える〔人々を助けること〕を一切させない、というものだった。 天使はそれならそれでこっちにも考えがある! と、意気込んで向かった先は神の所だった、そこで何をするかというと一つの頼み事をした。 後にこの頼みごとのおかげでこの天使は人生を変える事になるがそれには本人は知るよしもない、 「いいですか、神様、私の願いはこうです。人間界に降りて1人の人間に付いてその人間に生涯、助けることを誓う、これを許して欲しいのです。」 明らかに、自分より上の人に対する態度が悪いが別に天使は直す気などサラサラ無かった。 神は戸惑った。今まで、天界でこのような思いを抱く天使は居なかったからだ。だがせっかく願っているのにその思いを無駄には出来ない。 そう考えた神は1つ、条件を付けることにした。 「今から2年、天界には帰ってこないで人間界の勉強をしなさい、それで2年後、学んだ事を私に告げる事、いいな?」 それを聞いた天使は少し笑って、 「ありがとうございます」 と告げるとその場を去っていった。 残った神は少し心配だった。人間界で学ぶということは、人間の心に触れるということだからそれは良いことでもあり、逆に危険でもあったから。 そして、天使は神から許しを貰った後、すぐこれから自分の一生を決めるための人探しを始めた。 通常、天使には不幸を感じる機能がある。これはより効率的に、簡単に人を助けるための機能だが、これは使うのに絶望的な集中力が要る。なので大抵、天使達はそれは使わず、人間界まで降りて捜すのが普通だがこの天使、雨天快楽(うてんかいら)はその普通を使わず、普通の者ならありえないような事を始めた。 「よし、じゃあやるか!」 そう言うと、快楽は腕を大きく回して自分の前に円を作りだしてそこから一つの翡翠色の石を出した。するとその石はすぐ活動を開始した。 快楽の手の上にあった石は快楽の手から離れてまっすぐに一本の光の帯を作りだし、空中で停止した。 「うん、まぁ初めてにしちゃあ上出来だな!」 簡単にやってはいるが、実はこの術は天使より上位にあたる光天使ですらやって成功させることは難しい、それを初めてだというのに簡単にして見せた快楽の才能は光天使をゆうにしのぐ、だが、この才能のせいで先輩天使達から嫌われているのも確かだった。 それでも笑っている快楽には深い理由があるにはあるのだが、本人はあまりその事に触れようとはしない。 「さて…光の示す所は…へ?」 変な声が出たのも無理はない石の光は人間界を示す光では無く、その更に下、通称、地獄界の方を向いていた、地獄界は魔王が頂点に君臨し、代々その子供が継いでいる世界…だった筈だ…あまり自信は無い何しろもう何百年も前に交流を断った世界だから、まぁどちらにせよ不幸の頂点は魔界にある。それならばそこに行くしかない… 普通、魔界の住人達は不幸を感じなかったはずだが…まぁいいや…とりあえず行くか! 天使は少しの疑問を持ちながらも魔界に行く。そして、世界のバランスはゆっくりと崩れる…時間は動き出した……あらゆるものを巻き込みながら……… 次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |