《MUMEI》

だがここで、気になる事が小野坂にはあった
「……お前、モノ食えんの?」
思ったことをつい口に出していた
ロイドにとってはそれが意外な質問だったのか、瞬間虚を突かれたような顔
だがすぐにフッと肩を揺らし
「はい。俺は食べたものをそのまま稼働エネルギーに変換していますから」
だから一緒に食事ができる、と相変わらずの満面の笑み
何故そんなにも嬉しそうな顔が出来るのだろうか、と
ロイドの顔をついまじまじと眺め見てしまう
「あ、俺、ニンジン嫌い」
ソレを籠へと入れようとしていたロイド
つい子供のような事を言ってしまい
呆れられはしないだろうか、と恥ずかしさを覚えてしまう
「じゃ、トマトは、好きですか?」
だが理度は深く追及する事はせず、別の野菜を手に取っていた
赤く熟した、トマト
それ自身、小野坂は嫌いではなかったが、カレーに入れるという事はあまりなく
どうなるかは、想像が付かない
「一緒に煮込むと美味しいんです」
「そう、なのか?」
「はい。楽しみに、しててくださいね」
そんあやり取りを続けながら大体の材料を購入し、買い物は終了
存外大量になってしまった荷に苦労しながら何とか帰宅すれば
早々にロイドが台所に立つ
「……器用、なんだな」
手際よく切られていく野菜
何気なく思ったことを口に出して見れば
ロイドは若干照れるかのように顔を伏せていた
「……そうだ。ご飯」
「米?」
「カレーライスだから。ご飯がないと」
唯のカレーになってしまう、とのソレに
つまりは米を炊けと言う事なのだろうと、小野坂は米を研ぎ始める
「良。それ、もしかして二合ですか?」
「そうだけど、多いか?」
確かに、二人で二合とは多すぎるかもしれない
そこで思い留まった小野坂
だが、ロイドが言わんとしていることは全く別の事だった
「多分、足りないと思います」
「は?」
意外なその返答につい聞き返す事をすれば
ロイドは相変わらずの笑みを浮かべながら
「俺、一人で二合は軽く食べます」
地味に、驚く事を言ってきた
流石にそれは食べ過ぎでは、とロイドをつい見やってしまう
驚くばかりの小野坂を、だがロイドは気付かずにカレーの支度に取り掛かる
「後は、ご飯が炊けるのを待つだけですね」
出来上がったらしいカレー鍋に蓋をし
ロイドはリビングのソファへと身を寛がせる
小野坂も同時にやる事がなくなり、リビングでテレビを見る事に
「良」
リビングへと入るなり腕を引かれ、小野坂はバランスを崩す
倒れてしまう身構えれば、ロイドの膝の上へと座らされていた
「……何、すんだよ」
「すいません。つい」
謝りながらロイドは小野坂を離す気は無い様で
初めこそその手を解こうとしていた小野坂だったがすぐに諦めた
この機械は一体どうしたいのか、その意図が全く分からず
もどかしさに苛立ちを覚え、丁度そこで炊飯器が米の炊き上がりを知らせる
「……米、炊けた。メシ食おう」
今度こそ腕を解こうとすれば
その手首を取られ、もう一方の手が小野坂の顎を捉え上向かせる
何をしているのかと言いかけた小野坂の唇を、ロイドが自身ソレで塞いできた
「――!?」
瞬間、何が起こったのか解らず
だがすぐに把握し、小野坂は眼を見開いていく
「お、お前、今何して――!?」
当然動揺し、すっかり声をひきつらせてしまう小野坂
ロイドはそんな小野坂を僅かに驚いたような表情で見やりながら
「……システムエラーが、発生しました」
「はぁ!?」
「こんな感情、俺は、知らない」
だから教えて欲しい、と更に顔が近く寄る
乞われてしまい、だがソレに対する返答を小野坂は持ち合わせてなどいない
人は、苦手だから
誰かが一緒に居るだけで、酸欠になりそうになる
幼いころから他人と居る事が苦手で。だから一人を好んでいた
「俺は、ヒトじゃない」
モノだと思えばいい、とロイドは言葉を続ける
人ではない。それは小野坂も理解はしている
だが、モノだとも思えない
触れてくる手も、耳元に優しく響く声も
ヒトのそれと余り変わりはしないのだから
「離、せ。痛ェ」
いつの間にか背後から抱きすくめられ
その力強さに痛みを覚え、小野坂は身を捩る
僅かばかりその拘束が緩み、それでも解放されることはない

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫