《MUMEI》

この観光施設が最後の集合写真場所だ。ちなみに最初に撮ったのは首里城前。
カメラマンさんの指示で担任を囲み三列になる。



「はい、前の列男子もう少し右寄って」
クラス写真て嫌いだ。
上手く写れないから。
……写真はどれもそうだけどね。



また半目かな……


「1番後ろの列の人、前に寄って。そうそう。」
七生は中の列で1番後ろにいる俺の前にいた。カメラマンの言う通りに七生に近付く。

「男子まだ前!」
カメラマンさん、無理です。近すぎです。

不意に昨日の記憶が蘇る。

「端の男子!寄って!」
俺か……!

七生の背後に寄る。
後頭部を見るとバスタブの縁から俺を追ってきた唇の感触を思い出す。……カメラのフラッシュも上手く見られない。


右の指先に思い出した体温が移ったみたいだ。






…………違う。七生が本当に指を、掴んでいた。

重なって皆から死角になっているのをいいことに右手を握っている。



馬鹿、大馬鹿者。
まるで我慢のきかない子供だ。駄目と言われる程やってしまう。


そして、この手を振り払えない俺も馬鹿で、子供で、七生がどうしようもなく愛おしい。




カメラのレンズを見ているのに全く別の事に集中している。皆の声が耳の底に篭っている。

指先は七生の皮膚に染み込むように埋めてゆく。
人差し指だけは反発して引っ掻いてやった。


堪え性のなさすぎる自分達への戒めとして。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫