《MUMEI》
――本当の俺
本当は大勢でワイワイ楽しんだり社交的だったみたいだ。
――長年の孤独が一気に埋まる感じがした。
仕事が楽しくて仕方がなくて、何時しか直哉の存在が俺から消えていた。
「ゆうちゃん、今日上がり同じだよな、終わったら何か食いに行こうぜ」
最後の休憩の合間、伊藤さんが俺に話かけてきた。
「はい、行きます。
楽しみだなあ…」
――伊藤さんは特に誘ってくれる。
美味しいお店なんか結構知っていて、しかも自宅まで送ってくれる。
兄貴が居たらこんな感じなのかなって…
俺よりずっと大人なんだけど話が合って一緒にいて、今一番楽しい人なのかもしれない。
「今日はしゃぶしゃぶにしよう!ロケ弁のしょうが焼き不味かったからなあ、はは、口直しだ」
伊藤さんはサッと煙草を吸いだし吹かし出す。
俺は未成年だから大っぴらには吸えない。
だから撮影現場での休憩中はめっちゃ地獄だ。
「ほれゆうちゃん、皆こっち見てねえ!今だ!一口吸え!」
伊藤さんは自分の吸い始めた煙草を俺の口に入れた。
「ぷはー…うまい…」
「はは、早く二十歳になりてーだろ、そしたら呑みにも…行こうな」
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