《MUMEI》

小野坂を抱きしめたままのロイドの腕が不意に震え始め
不安に感じているのは自分だけではないのだと
小野坂は安堵に全身から力を抜いていた
「……メシ、食うぞ」
「良?」
「……焦んな。俺は、逃げない、から」
言って聞かせてやればロイドはゆるり腕を解く
なんて不器用な機械なのだろう
人間よりも人間味がある、と小野坂は肩を揺らしたb
「カレー、よそってくれよ」
「はい?」
「折角作ったんだし。お前が」
食べさせろ、と子供の様に強請ってやれば
表情を和らげたロイドが頷き、食卓に着いた小野坂の前にカレーが置かれる
頂きます、と両の手を合わせ食べ始めた
甘い、子供向けの味
辛い物があまり得意でない小野坂好みの味だった
「……美味い」
素直な感想を言ってやれば、ロイドの表情が嬉しそうなソレに綻ぶ
たった自分の、あんな短い一言で
「まだ、ありますよ」
食べますか、と問われ小野坂は皿を差し出す
また食べ始めれば、ロイドの手が不意に、小野坂の頬へと伸びてきた
微かに身体を震わせ、その身を引いてしまえば
「すいません。口元にカレーが付いていたものですから」
苦笑を浮かべながらの謝罪
そのまま指先についたカレーをなめとるロイドに
小野坂は瞬間返す言葉を失ってしまい
暫く後に、驚いた様に短く叫ぶ声を上げていた
「良!?」
行き成りのソレにロイドは驚いたようで
だが驚いたのは坂下とて同じだった
「お前、何やって――!?」
行き成り過ぎるソレについ怒鳴ってしまえば
ロイドと正面から視線が重なる
真っ直ぐなソレに捕らわれてしまいそうでどうしてか怖くなった
「……俺、風呂入ってくる」
ソコに居る事が耐えられなくなり
小野坂は逃げる様にその場を後にする
浴室の脱衣場へと飛び込めば、戸を背に座り込んだ
逃げないといった矢先に逃げてしまった
怖いわけでは決してない。唯人が傍に居る事に慣れていないだけで
「……何、やってんだか」
つい、自嘲する
何故人に対してこれほどまでに臆病なのだろう
思い返せば、物心ついた頃からそうだった
何か、原因になる様な事は何もない
だが他人と触れあう事が何故か不得手で、だから常に距離を開けて接する
必要がなければ他人と関わる事などしない方が楽だと
そんな事さえも思ってしまうほどだ
「……何で、なんだろうな」
自分ばかりがそうなのではないかと考えたとき
ヒトはやはり不公平に出来ているものだとまた笑う
「良、生きてますか!?」
それからどれくらい浴槽内でぼんやりとしていたのか、ロイドが浴室へと飛び込んできた
突然のソレに驚き、小野坂はつい脚を滑らせ
身体を咄嗟に支えきれず湯の中へと沈む羽目に
「お前……、行き成り入ってくんなよ」
顔を出しながら文句を言ってやれば、ロイドはあからさまに安堵の表情を浮かべ
「すいません。遅かったので溺れているんじゃないかとおもって」
「んな訳ねェだろ。年寄じゃあるまいし」
「そう、ですね。すいません」
笑みを薄く浮かべながらロイドは浴室を出る
そのあとに小野坂も続き、寝巻の下だけを身に着けそこから出た
「……処で、お前って寝んの?」
「はい?」
食べられるのかを問うたそれと同じような問いをしてやれば、同じような反応が返ってくる
ロイドはその問いに暫く考えた後、徐に自分の首の後ろを指差した
見てみろと言わんばかりのソレに小野坂は覗き込んでみればソコに
何やらスイッチの様なものがあった
「これが低エネルギーモードへの切り替えスイッチです。人でいう睡眠に近い状態になります」
「へぇ」
どうやら限りなく人に近く造られている様で
小野坂はゆるり手を伸ばすと、そのスイッチをいれてやる
「……良?」
うとうととし始めたロイドをベッドへ
寝かせてやればロイドがどうしたのかと小野坂の方を見やった
だが小野坂は何を言う事もせず、そのままベッドへと入る
「……俺も、もう寝るし」
「そう、ですか。じゃ、おやすみなさい」
はにかんだ笑みを浮かべ、ロイドはそのまま寝に入った
傍らに、誰かがいる
まだ矢張りなれる事はないが、それでもこの機械ならば大丈夫のような気がすると
小野坂もゆるゆると寝に落ちていったのだった……

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