《MUMEI》

日向は1つのマンションを見上げるようにして立っていた。
ESO社員寮。
入居者は全員守護者もしくはその存在を知る者であり、機密保持という点で優れた住居。
アリシアは光に対して住むように強く勧めたそうだが、彼女は最後まで首を縦に振らなかった。
日向も自分でアパートを借りているのでここに足を運ぶ必要はない。
しかし、今日は用事がある。
光と別れた直後、見計らったかのようにアリシアから連絡があったのだ。
「アリスのヤツ……絶対に監視してただろ……」
なんでも、日向1人ではきついと思ったのか、協力者を付けてくれるらしい。
7時に入口で待機するようにとの指示だったのだが……。
腕時計の針は約束の時間を30分過ぎていることを示していた。
「来ないじゃねーか!」
苛立ちまぎれに叫ぶ日向。
入口横の詰所にいる警備員が胡散臭そうに日向を見ている。
……これもアリスの振り回し癖か?

「あ、ハジメじゃん
もう来てたんだー」
不機嫌な彼に対して緊張感の無い声がかけられた頃には時刻は8時を回っていた。
「よりによってお前かよ」
呆れた様子の日向の前に1人の小柄な人物が立っていた。
「嘉月誠、登・場!」
……面倒なヤツを引いてしまった。

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