《MUMEI》

 季節外れの桜の花が、そこにははらはらと舞い散っていた
美しい薄紅を散らすソレを見つける事が出来たのは、次を跨いで翌月13日
季節外れだというのにも関わらず満開に咲く桜
まるで桜好きだったらしい少女の母親の死を悼むかの様に
その花は淡く、柔らかだった
「……散っちゃう」
ヒラリヒラリ
雨の様に降る桜を見ながら、少女は残念そうに呟く
満開の桜、後はもう、散るだけで
少女は徐に土の上へと膝を付くとその花弁を拾い始めていた
僅か離れた場所ではその母親の葬儀が盛大に行われ
今、坂下も少女も喪服を身に着けその場に居る
「……この世界って、一体何なんだ何なんだろう。どうして誰かが、死ななきゃいけないの?」
幼い頭ではどうしても納得する事など出来ず
何故、どうしてを何度も坂下へと問うてきた
だがその問いに対する答えを坂下は持ち合わせてはおらず
何も返す事が出来ずにいると
「世界が人を、愛せなくなってしまっているから」
聞き覚えのある声が背後から聞こえ
ゆるり振り返ってみればソコに、あの時対峙した相手がいた
世界が人を愛せない。だから、ヒトの死を望む
随分と残酷な話だと顔をしかめて見せれば
相手は僅かに顔を伏せ、だがすぐに少女へと向いて直ると
小さな、小瓶を差し出した
「これは、何?」
受け取る事はせず、それが何なのかを問う少女
相手はだがその問いに答えてやる事はせず
兎に角受け取れとその便を少女へと押しつけた
「……せて、欠片だけでも傍に」
弾みでカランと乾いた音を立てるソレ
中を確認するため蓋を開けてみれば
その瞬間、散らばったのは細かな灰
さらさらと流れる様に落ちていくソレを、坂下は咄嗟に受け止める
これは少女の母親の灰だと、咄嗟に察したからだ
「……これは、お母さん?」
坂下の手の上で小さな山をなしたそれを少女は眺めながら小さく呟く
相手は頷きながら
「ごめんなさい。これだけしか、連れて来てあげられなくて」
それだけを伝え、その場を後にした
そのあとを、どちらも追う事はせず
坂下は手の上の灰を、零さない様また瓶へと戻してやり
少女へと渡してやっていた
「……こんな世界、嫌い。大嫌い!!」
伏せたその眼から、涙が零れ落ちる
ヒトを愛さなくなった世界と、その世界を愛せなくなった少女
どちらともが不憫だと、まるで他人事のよ様に、坂下はその様を眺めるしか出来なかった……

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