《MUMEI》

「ぐちゃぐちゃってか、壊れてんじゃねェかよ。思いっきり」
つい愚痴る様に言ってしまえば
「……なっちゃん、ごめんね」
岡本が上目使いに謝ってくる
その顔にやはり弱い前野は深く溜息をつき
苦笑を浮かべて見せながら岡本の頭へと手を置くと
「……取り敢えず、千鶴さんの料理が如何程のものかがよく分かった」
最早料理の域は超え過ぎてしまっている、と
「で?那智。なんか考えでも?」
村山から問う声が聞こえ
考える処など特になかった前野はしばらく考え込み、そして
「千秋」
徐に、岡本を呼ぶ
何かと小走りで近く寄ってきた岡本へ
「住人全員、ロビーに招集掛けてくれるか?」
「……どうするの?」
前野の意図が解らず首を傾げる岡本へ
前野は詳しく説明してやる事はせず、いいからと片目を閉じて見せる
「……分かった。呼んでくる」
何か考えがあるのだろうと察したのか
岡本は頷くと身を翻し、皆を呼びに向かった
「那智、何企んでる?」
「別に」
「悪そうな顔してる。何?楽しい事?」
興味があるのか、聞いてくる村山へ
前野は口元へわずかな笑みをうかべて見せる
「……なっちゃん。皆、連れてきた」
丁度そこで岡本が皆を引き連れやってきた
皆が皆何事かと怪訝な顔
「じゃ、全員揃ったみてぇだし。千鶴さん、なんか作って」
「わ、私!?」
「こういうのは回数重ねるのが一番。全員犠牲にしてもらってもい構わんから」
「な、那智。犠牲って、最早取り繕えてないぞ」
段々と疲労が蓄積し、村山の言葉通り言葉を取り繕う事をすっかり忘れていた
だがその必要もないだろうと、前野は弁解する事はなく
作ってみろ、と千鶴を台所へと追いやる
「……ちょっと前野、村山。一体何なの?」
突然の招集に花宮から問う声
前野は詳し説明してやる事が面倒なのかせず
代わりに村山が事の説明を始める
「ソレで?私たちに試食しろってことなの?」
「そういう事。話が早くて助かるよ。花宮さん」
事の理解を得たとと、村山は花宮へと笑みを浮かべ
台所の千鶴へと料理の催促をする
「で、出来ました!」
丁度いいタイミングで料理が完成したようで、千鶴が声を上げる
食卓へと運ばれてくるソレ
匂いはいい、だが
「……千鶴さん。コレ何か聞いてもいいか?」
思わず聞いてしまうほどにそれが何かが解らず
千鶴は言いにくげに顔を伏せ、小声でそれが何かを呟く
「……肉じゃが」
「肉じゃがって、これがか?」
つい聞き直してしまう前野
ソレに千鶴が何かを返すより先に、前野のシャツの裾を岡本が引く
何かと向き直ってみれば
「大丈夫。形は無いけど、じゃがいも成分はちゃんと入ってる」
「……そういう問題じゃねぇだろ」
「味も、割とまとも」
食べてみて、とそれを掬った箸を差し出される
此処で拒んでも話が進まない、と前野は箸を受け取り一口
そして何を言う事もせずすぐに箸をおく前野
深い溜息を吐き、首を横へ振り始めた前野の様子を見ながらも
「取り敢えず、食べてみようか」
村山に促され、皆が一口。瞬間、皆の動きが止まり
一斉に、箸を置いた
「な、那智。もしかして千秋って、味覚音痴なんじゃ……」
「……かもな」
つい頭を抱えてしまう程の味
ソレを普通にの味だと言ってのける岡本の方も何とかしてやるべきなのでは
岡本の方をチラリ横目見ながらそんな事を密かに考えてしまう
「……どうか、した?」
その視線に気づき、首を傾げてくる岡本へ
前野はゆるゆる首を横に振り、何でもないを返すと徐に立ち上がる
「那智?どうした?」
袖を捲りながら台所へと入っていく前野
何事かと顔を向けてくる村山
ソレに応えてやる事を取り敢えずはせず
千鶴が使い残した材料を使い、同じく肉じゃがを作り始めていた
「那智。それってもしかして、すき焼きのたれ?」
前野の手に握られて居るのは言葉通り、市販のすき焼きのたれ
ソレをグザイの入った鍋へと入れ始め
そして言い所まで入るとふたをし、そして煮込み始める
「出来た」
具を切り、そのすき焼きのタレと若干の水を入れ煮込んだだけ
だが味はちゃんと肉じゃがで
千鶴は驚いた様に前野を見上げてくる
「ちゃんと、肉じゃがしてる」
「これなら砂糖も出汁も入ってるし。割と簡単にできる」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫