《MUMEI》
「いや、ムリですよ」
最近じゃドラマに映画にCMと忙しくこなす隆志だってこんなに広いマンションには住んでいない。
それにうちの事務所は月給制で出来高払いじゃない。
「そうか?あ、ほら、コート寄越せ」
伊藤さんはハンガー片手に手を伸ばしてきた。
俺は着ずに持ち歩いていたコートを手渡す。
「すみません」
「いやいやいや、今日はゆうちゃんお客様ですから」
伊藤さんは壁際にあるデザインの格好良いポールにそれをさくっとひっかけて、カップボードからグラスを二つ出した。
俺もおでんのカップを袋から出して蓋を開ける。
ちょっとお腹がいっぱいだからどうかなあって思いながら開けたら大根や白滝しか入ってなくて、
ちょっとほっとしたりなんかした。
▽
「ほら、」
伊藤さんが先に缶ビールを掴み、俺に向けてきた。
俺は慌ててグラスを掴み少し傾ける。
「有難うございます」
慣れた手つきで並々と俺のグラスに注ぎ終ると、間を入れず伊藤さんは自分のグラスにつごうとした。
「あ、俺が」
「まーまーいーからいーから!」
伊藤さんはそう言いながら自分で注いでしまい、
俺はちょっと置いてかれた様な、申し訳ない気分になる。
「ほら!今日もお疲れ!かんぱ〜い」
「…、お疲れ様でした、乾杯!」
まあ直ぐにお酌すれば良いやと俺は思いなおし、ビールをゴクッと飲み込んだ。
「あーもう!美味しい!」
これ飲むとめっちゃほっとする。
何か一日が終わった〜って感じで…。
・
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫