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《MUMEI》 「なんか、外がにぎやかだな」 その日の夕方、外が俄かににぎやかになった 何事かとロイドの方を僅かに見やれば ロイドは暫く考える仕草を店、そして直ぐ後 「……そういえば、この近所で今日お祭りがあるとか」 「祭り？」 「ええ。外に張り紙が何枚も貼ってありました」 あれです、と窓越しに見える電柱に張られている張り紙を指差す だがそれは遠すぎて小野坂には見えず 眼を細めて何とか見てみようと試みるが出来ない 「……お前、アレ読めんの？」 「はい、読めます。俺の目、割と性能がいいんです」 便利ですよ、と自身の目を指差しながらロイドは笑う そして小野坂の手を取ると、行っていようと引いてきた 「ちょっ、何処に!？」 突然のソレに慌ててしまえば、だがそのまま外へと連れ出され 祭りで賑わう人混みの中へr 「ロイド！俺はいいって！」 人混みになど居たくはない そう言ってはみるが周りの喧騒にその声はかき消されてしまう いっそ怒鳴ってやろうかと小野坂は口を開くが チラリ見えたロイドの楽しげな横顔に、つい言葉を飲み込む 「……手、離すなよ」 どうせ聞こえはしないだろうと小声で呟いた一言 同時にロイドが小野坂へと向いて直り 聞こえていたのか、勿論と満面の笑みだ 「……あ、リンゴ飴」 人混みの中を漸く進み始めてすぐ ソレを見つけ、小野坂が脚を止める 何気なく眺めているとロイドがソレを一本買い、小野坂へと渡してきた 食べてもいいのかと問うてみれば、頷いてくれた 「……美味い」 一口齧れば、甘い味 三分の一ほど齧った処で、小野坂は徐にロイドの方へと向いて直り 食べるか、とソレを差し出した だがロイドは首をゆるく横へと振りながら 「それは良にプレゼントします。俺は、これで」 ロイドが顔を近く寄せてくる その事を指摘してやろうと口を開き掛けた瞬間 唇が塞がれていた 「――!?」 突然の事に当然驚き、あからさまにロイドと距離を取る 何をするのかと睨み付けてやればそこで ロイドは自分がしてしまった事に気付く 「す、すいません。俺、つい……」 小野坂も驚いたが、それ以上にロイド本人が驚いていて 余りのソレに、小野坂の方は段々と落ち着きを取り戻す 「……食べるなら、ちゃんと食べろって」 言い終わると同時にリンゴ飴をロイドの口へと押し付けてやった ロイドは相変わらずの笑みのままソレを受け取ると食べ始める こうしてみると、この目の前の男が機械だなどとは矢張り信じられない 自分よりも人らしい感情を持っている、と 小野坂はついロイドの横顔に見入ってしまう 「良、あそこ。金魚すくいがあります。やってみましょう」 リンゴ飴を食べ終わるとすぐに別のものを見つける まるで子供の様に眼を輝かせるロイドに、小野坂はフッと肩を揺らし 「お前、ガキかよ」 「はい、ガキですよ。まだ二歳ですから」 いたずらな笑みを浮かべ、ロイドは小野坂の手を引いた 金魚すくいなど、何年振りだろうか 水の中で涼しげに泳ぐ金魚を眺め見ながらそんな事をふと思う 「……アレ、欲しい」 「アレ？」 静かに指差したそれは、赤黒の鯉の様な模様の金魚 モノを強請るなど子供の様だと思いはしたが 何故かそれがやたら欲しいと感じた 「あの子ですね。解りました」 言うや否や ロイドはポイを鮮やかに扱い、その金魚を掬いあげていた ソレを袋に入れてもらい、ロイドは小野坂へと渡してくる 帰りに金魚鉢を買いましょう、と笑ってくるロイドへ 小野坂は顔を俯かせ、だが頷いて見せた 「もう、行く」 ロイドの袖を軽く引き、その場を後に 小走りに人混みを流れに逆らって進み。暫く後立ち止まる 「良、大丈夫ですか？」 当然の事ながらロイドは息一つ乱す事もなく それが何となく悔しかった この機械は本当に自分が持っていないものばかりを持っている、と 「……喉、乾いた」 手近にあった長椅子へと落ちる様に腰を降ろせば すぐにジュースが差し出される 見ればすぐそばに自販機 都合よくあったらしく、小野坂は一言礼を言うと飲み始めた 「少しは、楽しかったですか？」 飲みほし一息付けば、ロイドが顔を覗かせてくる そうであってくれれば嬉しい ロイドが小野坂に向ける言の葉はいつも優しい 前へ |次へ |
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