《MUMEI》

作ってみてはどうかと、そのたれを手渡す 
早速作り直す様で、千鶴はまた台所へ
「……しかし、肉じゃがばっかは、流石に飽きるな」
「他の料理って選択肢はなかったの?」
皆が皆肉じゃがに飽き始めているようで
花宮がそんな事を言い始める
そんな事は最早今更で
今は取り敢えず食卓に並ぶ肉じゃがの山と対峙するしかない
「……俺、もう限界」
村山からつい本音が出る
他の皆もどうやら限界の様で
さてどうしたものかと考えを巡らし始めた直後
「あら、じゃがいもが無いわ」
台所の方からそんな声が聞こえてくる
じゃがいもが無ければこれ以上は作れないだろう、と皆が僅かにガッツポーズをする
だが
「千秋――!ごめんだけどお使い頼めるかしら?」
材料調達を頼む声
岡本は短く分かったを返すと、前野と村山の手を取り
「……一緒に、行く」
連れ立って外に出た
近所のスーパーまで歩いて15分
そ間だけでもあの肉じゃが責めから逃れられる、と二人は安堵する
「……二人とも、ごめんね」
途中、岡本の謝る声
一体何に対する謝罪かと前野らが岡本を見やれば
「……お母さん、いつもあんなだから」
どうやら申し訳ないとでも思っている様で
顔を俯かせてしまう
そんな顔をする必要はないのに
前野と村山は互いに顔を見合わせ、苦笑を浮かべた
「……別に、嫌だなんて思ってねぇよ」
「そうそう。だから千秋、そんな顔しないで」
二人同時に頭に手を置き、いい子いい子と撫でてやる
どうにもお互い岡本には弱い様らしい
「……千秋?」
改めてスーパーへと向かい始めた三人へ
前から歩いてきたサラリーマンが声を掛けてきた
「あ、お父さん」
その人物は岡本の父親で
もう帰ってくる時間化と携帯で時刻を確認する
Pm5:30
丁度、帰宅ラッシュに掛る時間帯だった
「やぁ、那智君に基一君。こんな所で会うなんて珍しいね」
「ご無沙汰してます。啓太さん」
互いに簡単に挨拶を交わした後
岡本父・啓太は、こんな所で何をしているのかを改めて岡本へと問うていた
事の成り行きをすべて説明してやれば、啓太は深々肩を落とし溜息を吐く
「皆さんにそんな迷惑を……。全く、あいつは……」
「何だったら、啓太さんも一緒にどう?今から材料買って帰るとこだけど」
そんな誘いをしたのは村山
啓太は暫く考えた後、ゆるく首を振りながら
「俺は、あいつのトコ行ってみます。台所が悲惨な事になってそうだし」
三人が帰ってくるまでに何とか片付けておくから、と
苦笑を浮かべながら啓太は重たげな足取りで帰路へと着いた
「ただいま。お母さん」
帰宅してみれば、放り置いた他の面子は皆撃沈
卓の上に突っ伏し、唸り声を上げる者さえもいる
その有様に啓太は瞬間絶句、顔を引き攣らせていた
「材料、買ってきた」
「ありがとう。あら、あなた。帰ったの?」
連れ立ってm返ってきた啓太へ、丁度良かったと笑む千鶴
その周りには材料にした野菜などの切りくずが無残にも散乱している
「ちょっと待ってて。ご飯、すぐ作るから」
岡本から材料を受け取り、また作り始め
その傍らに岡本も立ち、母親の補助にと米を炊き始める
「……ちょっと待て、千秋。その水の分量じゃ粥になるぞ」
どうやら親の背を身、素直に育っているようで
岡本の方も料理があまり得手ではないらしい
「……じゃ、これくらい?」
「それじゃ減らし過ぎ。固くて食えねぇよ」
大胆に水を捨てる岡本
どうやら加減というものがまだ出来ないらしい
「……いろいろと、大変ですね。啓太さん」
愛想笑いさえも引き攣らせる村山へ
だがソコは夫であり父
苦笑を浮かべるだけで村山への返答としていた
「基一、俺、この屍共部屋に放ってくるわ」
米を仕掛け終えた前野は花宮と片平の襟首をつかむと
引き摺る様に各々の部屋へと放り置いた
「俺も、少し休むか」
まだ微妙に満腹だ、と二階へと上がりベランダへ
ささやかに吹き付けてくる風を涼しいと感じながら
前野は一人、煙草を咥え火をつけた
「お前、煙草やめたんじゃなかったっけ?那智」
溜息と共に白い煙を吐き出したと同時
村山もソコに上がってきた
どうかしたのかを問うてやれば、前野の銜えている煙草を取ると
「俺も一休憩。後は啓太さんに任せてきた」

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