《MUMEI》

坂下から逃げるかのように小走りに進んでいく
その腕を掴んでやり、坂下は少女の身体を小脇に抱え上げた
「ちょっ……、降ろして!!」
「何しに行く気だ!?何処に!?」
つい怒鳴ってしまえばビクリと身体を震わせ
瞬間、暴れる事を止める
そして坂下の顔を見上げてくるその表情が段々と涙に崩れていった
「……お願い、しに行くの」
「何を?」
「……ヒトを、もう、殺さないでって」
果たしてそんな言葉が通じる相手なのか
そもそも(世界)とはどういう存在なのか
解らない方が多すぎて
坂下はまずそれを知ろうと少女に問うてみる事に
だが少女は答える事はなく
坂下の腕を振り払い、下へと降りるとそのまま歩き出す
そのあとを追うてみれば、今度は付いてくるなとは言わない
互いに一定の距離を保ちながら進んだその先には
さkらの気が一本佇む広場
その下に、何かが居た
ヒトの様で人ではない何か、が
あれは一体何なのか
悩むより先に、その何かがゆらり蠢いた
「駄目、離れて!!」
少女の声をまるで合図に、何かが坂下へとにじり寄っていく
本当にこれは何だというのか
全てを目の当たりにしても尚、それが何なのかが解らない
何とかそれと距離を取れば、少女が傍に
そして、徐に坂下の袖を引いてくる
「……あれが、(世界)。この世界の全て」
その言葉がもし事実ならば
自分達はなんて醜い物の上に生きているのだろうと
坂下は嫌悪に口元を覆う
「……逃げて。出来るだけ遠くに」
「お前は?」
「……私は、お願いをしに来たの。逃げ出すわけには、いかない」
だから逃げて、と少女が坂下の背を押す
この何かは危険だと本能が警鐘を鳴らす
だがこの少女を一人放り置いていいのか
その迷いが坂下の脚元を捉え、動けなくなる
「やはり、此処に来たか」
暫く動けずに、そのまま立ち尽くしていると
背後から聞こえてきた声
互いに弾かれたようにそちらを向いてみればソコに
あの男が立って居た
「自ら餌になりに来たのか?」
「……そんな訳ない」
「ならば、何をしに来た?」
「……解ってる、くせに」
はぐらかすような嘲笑に少女の表情が曇る
それでも尚嘲笑ばかりを浮かべる相手に
少女は言い迫ろうと一歩歩み寄った
次の瞬間
(世界)が唐突に声ではない雑音の様な咆哮を上げる
「!?」
「逃げて、早く!!」
このままこの場に留まれば食い殺される
そう本能が訴えてくる
だが坂下が何故かその場から受けずにいた
「……世界は神に等しいモノ。その髪を目の前に何故抗おうとする?」
相手の声を耳元で聞きながら
境田はユラリユラリ蠢く醜いその(世界)を唯眺めるばかりだ
「この世界は判断した。増えすぎた人間は有害にしかならない、と。だから、減らす事を始めた」
それが13制度
そう、思えば坂下の両親もソレで殺されたのだ
まだ幼かった坂下へ両親は、その瞬間まで笑みを浮かべたままだった
大丈夫、悲しくはない。神様と一つになるのだから、と
「あ゛……」
何故、今更にこんな事を思い出す?
部屋中に広がった血と、噎せ返るようなその臭い
今はもう記憶でしかないはずのそれが
まるで今、目の前に広がっていくような錯覚に陥る
ああ、いっそ壊れてしまえばいい
ヒトに死を強いるこんな世界など
「……足掻くな。人はいずれ死ぬ。それが早いか遅いかの違いだ」
たかがそんな言葉程度で納得しろというのか
馬鹿にしている
本当にこの世界はヒトを愛してはくれないのだと嘲笑に肩を揺らしながら
「……なら、こんな世界そのものも、必要ないよな」
相手の言葉に割って入りながら坂下は手の中の刀を握り返す
そうだ、壊せばいい。それならば人は誰も傷つかない
「……壊してやるよ」
短く吐き捨てる様に言葉を発し、坂下は土をけった
その勢いを借り刀を振るい
何かを切りつけた鈍い感触がてみ伝わってくる
そして同時に何かが下に落ちる音
坂下の足元に転がってきたそれは、相手の腕
件を表情を歪ませながらもつい見てしまったソレに
13の文字が刻み込まれていることに気付き
無意識に相手の方を見やる
「お前……」
何故この男にこの痣があるのか
驚き、問う様な視線を向けてやれば
相手は歪んだ笑みを坂下へと向けてくる

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