《MUMEI》
癒し
「……帰りたくないだぁ?」
「………はい」

常に仏頂面なこの人も、困っていると顔に書いてある。
…いや、誰だって困るに決まっている。
どうして私はこんな見ず知らずの人を困らせているのだろう。
私の長所といったら、「他人に迷惑を掛けないところ」くらいしかない私が。

……………また沈黙。

お願いだから喋って。
迷惑なら迷惑だと言ってくれていいから。

すると向こうからやっと口を開いた。
「何があったのかは知らんが、そういう訳にはいかねぇよ。いいからさっさと教えろ」

……だよね。
当たり前だ。
見ず知らずの人にそんな我が儘言われて、従ってくれる人がいると思ってたんだろうか…私は。

「……わかりました」
私は俯いたまま、番号を伝えようと口を開いた瞬間、
「……一晩だけ」
「…え?」
「一晩だけなら泊まっていけ」

………そう、呟かれた。

嬉しかった。
ただ、嬉しかった。

本当に少しだけでいいから、私は休みたかった。

ぼろぼろの身体を、心を、癒してほしかった。

ただの同情でも構わない。

こんな私を労ってくれる人がいたという事実が



ただ、嬉しかった

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