《MUMEI》
初めての感情
23時
未だに雨は降り続いている。

私は今、仏頂面の彼に「汚ねぇから風呂入れ」と命令されたので、病院の浴室でシャワーを浴びている。

仏頂面の男…いいや、白戸太一(しらとたいち)は、この国立病院の院長の息子らしい。
年齢は28歳らしく、自分の想像より少し若かった。

しかし若いとは言っても自分とは一回り近く年の差がある。
関係のないことなんだが。
よく考えれば彼とは今日と明日限りでお別れとなる。

…そして明日にはあの家に帰らなければならない。

やっぱり1日だけの休養は私にとっては短すぎる。
贅沢な考えだということは重々承知だが、ここは私にとって居心地が良すぎた。
たった1日でこんなに依存してしまうなんて…
この場所に…

……あの人に…

これは恋心なのだろうかと疑ったが、私は15歳にもなって一度も異性に恋をしたことがないのでわからなかった。
ただ彼は私の救世主。
その事実に変わりはない。

「とにかく今日は全部忘れよう……やなこと全部」
声に出さないと不安でならなかった。

そしてシャワーを止め、浴室から出た。
脱衣場には自分には少し大きい女物の寝間着が置いてあった。
どうやらこれは先程部屋に来た女性、糸崎愛子の私物らしい。

素早く身体を拭き、寝間着に着替えると白戸さんに指定された部屋へと向かった。

部屋に向かう途中、彼…白戸さんと出くわした。

「あ…あの、お風呂いただきました」


……どうして私は今、心拍数が上がっているのだろうか。

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